木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”

【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.8『勧進帳』

2018/02/23


勧進帳

 
『勧進帳』を「境界線」というキーワードで描き直せば・・・
 
注目したいのは、「人間にとって最も越えがたい”関”は、人間の内面にある」と断言していることだろう。心の迷いから来る「煩悩の関」、世間体や常識など人の目を気にする「人目の関」は、どんな関所よりも越えがたいと、ついさっき、命がけで安宅の関所(国境)を越えた弁慶がいうのだから、説得力が違う。
 
なるほど『勧進帳』は、「関=境界線」をめぐる物語なのだということに気がついた。もしくは、安宅の関(現在の石川県)を舞台に、関を越えようとする男たちと、それを阻止しようとする男たちが、改めて、自分たちを取り巻く内面的な、越え難い関=境界線を意識する話だといってもいい。義経/富樫という敵味方として対立する境界線、その境界線の中で揺らぐ富樫という男。義経/弁慶の越え難い主従の境界線、強い絆で結ばれているはずの二人だが、その主従関係を越えて対等な個人として手を握り合うことはない。安宅の関所も単に国境というボーダーにとどまらず、義経たちにとっては、越えられなければ”死”が待っているわけだし、富樫からすれば、もし義経たちを通してしまえば、その責任を問われ死は免れないかもしれない、つまり両者にとって安宅の関所は「生と死の境界線」でもあるのだ。
 
『勧進帳』を「境界線」というキーワードで描き直せば、勝算あり、です―。

 
後日、演出の杉原さんにそう伝えた。不器用ながらに私が見つけた、それが”勧進帳のツボ”である。
 
演出の杉原さんは、そのツボを外さないように大切にしながら、境界線というテーマを大きく膨らませてくれた。平安末期から鎌倉初期に実在した源義経たち、『勧進帳』という演目を支持した江戸の人々、そして現代の私達―、社会の構造も価値観も宗教観も死生観も全く異なるにもかかわらず、「様々な境界線の中で苦悩し、孤独を抱え、それでも生きている」ということに関しては同じなのだと気づかされる作品に仕上げてくれた。演出家は、古典/現代という越え難いボーダーをも取り払ってくれたように、私は感じている。くしくも、来月、神奈川芸術劇場で、木ノ下歌舞伎の『勧進帳』を上演させていただくので、ぜひ多くの方にご覧いただきたい。

 
“ツボ”というものは不思議なもので、自分が一番よく知っているはずの自分の身体でさえ、他人に押してもらってはじめてそこが”ツボ”であったことに気がつくように、自身ではなかなか発見しづらいものである。だからこそ、”亀やん”のようなひとが必要なのだ。

 
木ノ下歌舞伎版の上演を見て、歌舞伎屈指の古典演目『勧進帳』が「そこそこ、亀やん、そのツボよ!」と言ってくれているかどうか、それはわからないが、あながち、ツボは外していないように、手前味噌ながら自負している。

 

木ノ下裕一(きのした ゆういち)プロフィール

1985年7月4日、和歌山市生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受け、古典芸能への関心を広げていく。2006年に古典演目の現代的上演を行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。作品の補綴・監修という立場を取りつつ、様々な演出家とタッグを組みながら創作するスタイルを取っている。団体の代表作に『黒塚』『東海道四谷怪談—通し上演—』『三人吉三』『心中天の網島』『義経千本桜—渡海屋・大物浦—』などがあり、2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。2016年に上演した『勧進帳』の成果に対して、平成28年度文化庁芸術祭新人賞を受賞。その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。
2016年に博士号(芸術博士)取得。平成29年度芸術文化特別奨励制度奨励者。
2013年より、急な坂スタジオサポートアーティスト。2014年より公益財団法人セゾン文化財団ジュニア・フェロー。

■木ノ下歌舞伎 公式サイト http://kinoshita-kabuki.org/
■木ノ下裕一 公式Twitter

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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東村山市出身。2003年、七代目柳亭燕路に入門。前座名「こみち」。2006年、「こみち」のまま二ツ目昇進。2017年、「こみち」のまま真打昇進。歌って踊れて落語のできる女、老若男女から友達になりたいと思われるような噺家を目指している。亭主は漫才師「宮田陽・昇」の宮田昇。漫才師と落語家の夫婦は史上初。二児の母として真打に昇進したのも、落語史上初。「落語坐こみち堂」「なかの坐こみち堂」をはじめ、日々多数の落語会に出演し、ナレーション、講演活動、執筆活動、学校寄席への出演も多々。こみちが大きな出世街道となるよう、鋭意奮闘中
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【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.8『勧進帳』

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

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