落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成21年8月分)<4>

2009/10/08


今回は8月21日「J亭」の演目、全4話。談笑落語会の夏より4本の演目をご紹介します。

『お化け長屋』

082101 長屋の連中が共同の物置代わりに使っていた一軒の空き部屋に、大家が「貸家」の札を貼った。「誰も引っ越してこなければ今までどおり使える」ということで、古狸の杢兵衛と呼ばれる長屋の古株が「長屋の差配だ」と名乗って、借り手に「あの部屋では三年前に美しい後家さんが惨殺され、それ以来夜な夜なその後家さんの幽霊が出る」という怪談噺を聞かせ、追い返そうと画策する。

 早速一人の男がやって来て、杢兵衛は一龍斎貞水ばりの話術で怪談を披露、男は怯えて逃げ帰った。しかし、二人目の男は途轍もない乱暴者で、いくら脅しても全く動じない。怪談を聞かせる際に「あの部屋に住むっていうなら店賃払わなくていいよ」と杢兵衛が言ったのを幸いと、その乱暴者は「引っ越してくるから掃除しとけ!」と言い放って帰っていく…。

 ここまでが『お化け長屋』の「上」で、引っ越してきた乱暴者を追い出すべく「本当にお化けを出して脅かす」というのが「下」だが、「上」だけで終える演者が多い。談笑の『お化け長屋』も「上」のみ。

 といっても談笑ヴァージョンは通常の『お化け長屋』とは異なり、二人目の「乱暴者」は、実は落語ファンなら誰もが知ってる「店賃を払わず周囲に乱暴を働きながら長屋に居座っていた嫌われ者」。その正体が明かされるのが談笑版『お化け長屋』の見事なオチになっており、「下」が必要ない噺になっている。

 立川談笑『お化け長屋』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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『片棒・改』

082102 極端にケチなことで知られる赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべい)は、一代で大きな身代を築いたが、それを三人の息子の誰に継がせればいいのかを決めようと、自分が死んだらどんな葬儀を出すつもりかをそれぞれに訊ね、彼らの了見を知ろうとする…これが『片棒』という噺。

 談笑の『片棒・改』も噺の骨格は同じだが、長男がオカマ、三男が上の二人と母親が異なりユダヤ人とのハーフという設定で、三人がそれぞれ提案する葬儀の内容も古典とは大きく異なる。『片棒』というタイトルは、サゲの「片棒はおとっつぁんが担ぐ」という台詞から来ているが、談笑ヴァージョンは三男がユダヤ系という設定を利用したオリジナルのサゲなので、「片棒」という言葉が登場しない。ゆえに『片棒・改』と呼ばれる。

 長男は贅沢な料理を出す派手な葬儀を、三男はケチの極致の葬儀を提案するのは古典の『片棒』と同じだが、談笑版は「長男はオカマ」「三男はユダヤ系」ゆえに、とんでもないアイディアが続出、爆笑を呼ぶ。

 古典の『片棒』のハイライトが次男の提案する「芸者の手古舞や山車の出るお祭り騒ぎの葬儀」であるのに対し、談笑版の次男はSF的な演出を施した壮麗なパレードで、やはりここがハイライトとなっており、某幕張のテーマパークのヒーローの名を観客全員で叫ばなければ次に進めないという「お約束」もあって、この日は「あれあれー? 元気が無いぞー? ここで我慢しないと立川談志も出てこないぞー」と司会のお兄さんが呼びかけたのだった。

 立川談笑『片棒・改』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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『青菜』

082103 お屋敷に出入りの植木職人。ジッと動かずに庭を眺めている。そこにお屋敷の旦那が「植木屋さん、ご精が出ますな」と声を掛けるが、職人は最初、相手が旦那と気づかず「精は出ネェよ! ここまで見事に造られた庭は、うっかり無神経に手を出したら総てがぶち壊しになるんだ。それにしても見事な庭だ…」と呟いている。これが談笑版『青菜』の冒頭場面。

 やがて、旦那だと気づいて恐縮する植木屋に、旦那は「大阪の友人から送ってきた柳蔭(という酒)」や「鯉の洗い」を振舞う。喜んで飲み、食う植木屋。「菜のおひたしはお好きかな?」と訊かれて「大好きです」と植木屋が答えると、旦那は奥方を呼んで菜を所望するが、奥方は「鞍馬から牛若丸がいでましてその名を九郎判官」と謎の一言。それに対して旦那は「そうか、では義経にしておきなさい」と答えた。

 どういうことか気になった植木屋がわけを訊くと、このやり取りは「その菜を食ろうて無くなった」「ではよしにしておきなさい」という、お屋敷の「隠し言葉」だという。すっかり感心した植木屋は、自分のうちでもそれを女房とやってみせて友達を感心させようと企むが、ことごとく失敗する。

 前半の植木屋と旦那とのやり取り、後半での植木屋の失敗の可笑しさ…これらをどう描くかで演者の個性が大きく分かれる噺で、談笑は台詞の数々に大量のオリジナル・ギャグをぶち込み、独自の世界を作っている。「暑い盛りに押入れに隠れていて汗だくになる植木屋の女房」を半死半生に追い込む極端な演出で「強烈な暑さ」を感じさせるのも談笑版『青菜』の大きな特徴だ。

 立川談笑『青菜』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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『疝気の虫』

立川談志 談笑が三席演った後、トリで登場した「落語立川流家元」立川談志。健康状態が悪化していることを吐露し、ジョークをいくつか披露した後、『疝気の虫』を。軽いネタながら、若き日から今に至るまで談志が愛してやまない十八番演目の一つだ。

 ある医者が、変な虫を見つけて潰そうとすると、「私は疝気の虫です」と名乗る。疝気とは下腹部が強烈に痛む病のことで、虫が言うには、自分たちが人間の体内であちこちの筋を引っ張るから痛むのだという。

 疝気の虫は蕎麦が大好きで、蕎麦が体内に入ってくると元気が出て暴れ、勢いよく筋を引っ張り始める。だから疝気に蕎麦は良くない。弱点は唐辛子で、唐辛子がくっつくと疝気の虫の身体はそこから腐るので、体内に唐辛子が来ると別荘(男性の睾丸)に逃げ込む。これらの情報を得た医師は、そこで目が覚める。と、「うちの旦那が疝気で苦しんでいるので」と往診を頼まれた。そこで医師は、夢に見た知識を活用しようと思いつく。

 まず、病人の枕元で奥さんに蕎麦を存分に食べさせ、その匂いを亭主(病人)にかがせる。すると疝気の虫たちは蕎麦を求めて旦那から飛び出し奥さんの口から体内へ。そこで奥さんが唐辛子の水を飲むと、疝気の虫たち、慌てて別荘へ逃げ込もうとするが、奥さんには別荘は無かった…。

 ストーリーの中に縦横無尽に「今思いついたこと」を投入し、観客に話しかけ、演っている噺に関して客観的に語るという「談志噺」の典型とも言えるスタイルで、「立川談志という個性」を強烈にアピールした一席。往年のエネルギッシュな演じ方とは異なるが、フワフワした味わいがあって魅力的な、「談志にしか創り出せない世界」がそこにあった。

 立川談志『疝気の虫』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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J亭 うちあげ話 vol/6

 夏のラスト。スペシャルゲストは家元でした。
 会場はJTビル内の「築地 植むら」。楽屋から歩いて1分なので、今回はこのお店にお願いしました。
 料理はなんといっても老舗の店。二手間三手間もかけています。普段の打ち上げの新橋界隈の居酒屋とは違います。中華風焼きそばでさえ特別謹製。営業時間も料理も特別仕立てでした。
 味も文句なしのはずだったと思います。
 なぜならば、滞留時間はわずかでしたが、愛弟子、談笑師匠の会ということもあり、体調のあまりよくなかった家元がなんと打ち上げに参加。

082104 ピリッと張り詰めた空気のなかでの美味という「へんな夜」の不思議な味わいでした。

(佐)


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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
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