落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成21年6月分)<2>

2009/07/23


今回は6月19日(月)「J亭」の演目、全3話。談笑落語会の夏より3本の演目をご紹介します。

『金明竹』

071901 骨董品を扱う道具屋で店番をする与太郎。雨宿りをしていた通行人に主人の傘を貸してしまい、主人が傘の断りようを教えると、猫を借りに来た御近所の人に傘の断りようで断ってしまう。「生き物には生き物の断りようがあるんだ」とまた叱られると「目利きをお願いしたいのでご主人をお借りしたい」という隣町の和泉屋の遣いに、「ウチにもおじさんが一匹おりましたが、こないだからサカリがついちゃって…」と、猫の断りようで断ってしまう。それを知った主人、慌てて和泉屋へ向かう。

 すると、留守に中橋の加賀屋佐吉からの遣いが来て、先に仲買の弥一に預けた道具七品について述べる…のだがこれが完璧な津軽弁! 「だんなさん、いでら? るさ? へば言付けたのまれてもらえるかね? わわ、なかばすぬわ、かがやさつづがたからきたぬわ…」と、何を言ってるか全く聞き取れない。「…ひょんごのボンズのすきだびょんぶだはんで、ひょうんぐやさだして、ひょんごのボンズのびょんぶさするはんでて、そうふにさべてたて、言付けしてけろ」と喋り終わっても理解できない与太郎、もういっぺん喋らせるが、腹を抱えて爆笑するばかり。

 奥からおかみさんが出てきて「申し訳ございません、この子はちょっとナニで、あたしが代わりにうかがいます」と詫びる。「な、かっちゃな?」「は?」「かっちゃだびょん」「びょん?」と、やはり津軽弁は全く判らない。業を煮やした津軽弁の男、「わのさべーてらことつこえてらか? もいっぺんだけさべるではんでのわ、よーぐつかねばまいねよ。わからねば、ミモするミモする!」と、メモの用意をさせてゆっくり喋る。しかし、いくらゆっくり喋ったところでおかみさんには津軽弁は判らず……。

 古典落語『金明竹』では関西弁の男が来て一方的に喋りまくるが、今どき関西弁が聞き取れないというのはあまりにリアリティに乏しい。そこで、談笑は数ある方言の中でも最も聞き取りの難しい津軽弁に置き換えた。津軽弁の遣いが真摯な態度で丁寧に説明し、それでも理解できないおかみさんのリアクションの描き方に、談笑ならではの抜群のセンスが発揮されている。主人が戻って言付けをおかみさんから聞くくだりも秀逸。談笑十八番中の十八番と言える爆笑落語。

 立川談笑『金明竹』(「J亭 談笑落語会 夏Part 1」より)

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『堀の内』
071902 極端に粗忽な男が主人公。あまりの粗忽を案じた女房が「堀の内のお祖師様にお参りして治してもらいなさい」と提案する。翌朝起きると「どちらのおかみさんですか?」と女房の顔も忘れ、自分の商売も、何をしに行くのかも総て忘れている。味噌汁で顔を洗ったり猫で顔拭いたりしながら素っ裸で出掛けて慌てて戻ってくる始末。改めて「南無妙法蓮華経」と唱えながら堀の内を目指すが、正反対の方向に。とりあえず首っ玉に結わえてきたお弁当を食べようと広げてみると、女房の赤い腰巻にマクラを包んで持って来たことが判明。慌てて再び堀の内を目指す。

 家に着いてしまった粗忽な亭主、「何しに帰ってきたの? どこへ行くんだっけ?」と女房に訊かれても悲しい顔で黙り込むばかり。男の粗忽はもはや「記憶がどんどん消えていく可哀相な人」のレベルに達している。「しょうがないわね」と女房は、墨と筆で亭主の顔に「わたしは堀の内へ行く馬鹿です」と書き記す。泣きながら呆然と顔に字を書かれている亭主。その顔で出掛けると、行きかう人々が皆、「ウワッ!」と驚愕した後で、「そのまま真っ直ぐ」とか「はい、こっちです」とか教えてくれる。中には「お大事にどうぞ」と言ってくれる人も。「みんなが俺のことを知っている…」と怯える粗忽な男。

 何とかお祖師様に辿り着くが、間違えて財布を賽銭箱に放り込んでしまった。一文無しになった男、仕方なく弁当を食べることに。「弁当つかわせて」「ご勝手に」「弁当だから勝手ってシャレだな」と首に結わいてある腰巻をほどき、中から枕がゴロンと…「俺はこれを知っている…デジャヴュ! 女の下着を首に結わいて中に枕に入れてうろつく男…俺は一体、何をする人だ?」 謎に包まれて帰宅した男に女房、「金坊を湯に連れてって」と頼む。「わかったよ」と金坊をおぶって歩き始める。「重いな」「おまえさんアタシ」 改めて金坊をおぶって湯屋へ向かうが、焼き場の煙突を見て先頭と勘違いして裸になったりと、ドタバタは続く…。

 演る度に様々なアドリブを入れ、時には『粗忽の釘』とミックスしたりする談笑十八番の粗忽噺『堀の内』、今日は比較的オーソドックなヴァージョン。湯へ浸かりながら「もう一席あるのか…湯から上がりたくないな…」等と呟いていた。(笑)

立川談笑『堀の内』(「J亭 談笑落語会 夏Part 1」より)

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『たがや』

071903 まず「この噺は『た~がや~!』というのがサゲです。今日は皆さん、このサゲをご一緒に! 練習をしておきましょう」と観客とともに「た~がや~!」を合唱。「いいですね!」(笑)
 両国の川開きの花火で雑踏を極める両国橋。そこへ、供の侍を連れて馬に乗ったまま通ろうとする殿様が。「無粋な侍だねぇ」と文句を言いながらも、無礼討ちにあってはかなわないと道を開ける町人達。と、その反対側からは、大きな道具箱をかついだタガ屋が、やはりここを通って帰ろうとしている。あまりの人ごみに一計を案じ「正蔵師匠の『子別れ』が始まるぞー!」と叫ぶと、人がザーッと引いていく。その隙に人ごみの中を通り抜けようとするタガ屋。

 タガ屋が人にぶつかり道具箱を落っことした拍子に、丸まっていた竹が弾け飛び、間が悪いことに馬上の殿様の鼻を直撃、そのまま笠をハネ上げた。「無礼者! 手討ちだ!」と怒る殿様。「病気の二親に免じてお許しを…」と土下座するも、全く聞く耳を持たない殿様。怒ったタガ屋、「勝手にしやがれこの丸太ン棒!」とケツをまくって啖呵を切る。「病気の二親なんてウソだよ! 俺には親はいません! 殺しゃいいじゃネェか! 二本ざしが怖くてアダルトビデオが観れるか!」

 斬りかかる供の侍の腕にガブリを噛み付き、落とした刀で撲殺したタガ屋。続いてもう一人の侍、これは本物の剣の使い手だが、斬りかかられて思わずしゃがみ込んだタガ屋の意表を突く動きにより、刀が欄干に刺さって動けない隙を下からズブリと刺され、これまた殺されてしまった。大群衆から起こる「たがやコール」。

 棹立ちになった馬から飛び降りた殿様、槍を構えてタガ屋を狙う。一方のタガ屋はザンバラ髪で、血の滴る錆びた刀を右手に持ち、左手には今殺した侍の刀。上空には色鮮やかな花火がドドーンと上がる。タガ屋が殿様の槍の先を切り落とし、刀へ持ち替えようとする殿様の首めがけて刀を横一閃、殿様の首がポーンと宙天高く…「上がった、上がった…(場内一斉に)た~がや~!」

 夏の噺としてよく知られる『たがや』、過去には落語史上類を観ない大虐殺ヴァージョンも披露したこともある談笑だが、今日は「サゲを皆さんご一緒に」という型破りな演出意外には古典を大きく変えることなく、状況説明や場面描写に独特の冴えを見せて談笑ならではの一席に仕上げていた。

立川談笑『たがや(「J亭 談笑落語会 夏Part 1」より)

J亭 うちあげ話 vol/4

三ヶ月ぶりに会場は西新橋GUIN(ぐいん)に。初めて雨ふりでない打ち上げ。
3月の初回以来となる談笑師匠のゲストなしの3席でした。
打ちあげのメインテーマは最新タバコ工場について。
季節で煙草の味を一定に保つための香りブレンダーの匠の技と発酵&カット技術など、タバコの葉の収穫から製品の出荷までを興味深く“勉強”させていただきました。例えば、フィルターはどのタイミングでくっつけるか分かりますか? そもそもタバコの太さって、どうやって決まったんでしょうか? 知れば知るほど“なるほど~”ということばかりでした。
ちなみにフィルターは、煙草の長さが倍のときにフィルターを両サイドから接着し、真ん中で裁断していくそうです。その技術とスピードのハイテク度がなにしろすごいらしいんです。
これは工場を実際に見に行かなくてはなるまいとのことで、7月末に談笑師匠一家とJ亭スタッフによるJT工場見学が決定。

072309今回は人気のレバ刺しが巣品薄でちょっとしか食べられなかったので、沖縄名産「うりずん」のてんぷらの写真をつけました。
やはり、今回も日付を越えてしまいました。すいません。GUINさん。

(佐)


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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

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2018/02/14

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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2016/11/29

【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.7 一味違った楽しさとパワ..

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
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