BUTAKOMEステージレビュー<劇場に行かねば!>

【ゲキネバ!】 Vol.2『ハムレット』

2017/04/24


 

ハムレット1

ハムレット/内野聖陽さん、オフィーリア/貫地谷しほりさん
撮影:引地信彦

 

ステージ雑感「ゲキネバ!」
Vol.2 『ハムレット』

 
劇場に行かねば! 強引に略して「ゲキネバ!」の第2回は、ただいま東京芸術劇場プレイハウスにて上演中の『ハムレット』です(4月28日千秋楽。5月に地方公演あり)。言わずと知れたシェイクスピア戯曲の、一、二を争う悲劇の名作ですね。演出は英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエイト・ディレクターであるジョン・ケアードさん。

ケアードさん演出舞台といったら、BUTAKOME読者の皆さんがまず思い浮かべるのは『レ・ミゼラブル』のオリジナル演出や『ダディ・ロング・レッグズ』『ジェーン・エア』といった人気ミュージカルだと思いますが、宮本輝の小説を舞台化した『錦繍』など、緻密な考察で練り上げられたストレートプレイにも感銘を受けた人は多いはず。
 

今回は、ケアードさんが2000年に英国ナショナル・シアターで発表した舞台『ハムレット』を日本で再構築。タイトルロールを任せたのは、これまで『レ・ミゼラブル』『ベガーズ・オペラ』『私生活』でタッグを組んできた内野聖陽さんでした。“青年の直情が引き起こす悲劇”という認識のもとに、当初は「え、青年にしては重厚すぎでは?」と感じたことを告白しておきます(内野さん許して)。
 

ハムレット3

ハムレット/内野聖陽さん
撮影:引地信彦

青年ハムレット内野さんとなると、周囲を固める布陣も自ずと豪華な巧者が揃いました。クローディアス役の國村隼さん、ガートルード役の浅野ゆう子さん、ポローニアス役の壤晴彦さん、そして墓堀り役が村井國夫さん。さらに貫地谷しほりさん(オフィーリア)、北村有起哉さん(ホレイショー)、加藤和樹さん(レアティーズ)、山口馬木也さん(ローゼンクランツ)、今拓哉さん(ギルデンスターン)と、人気と実力を兼ね備えた俳優陣が続きます。
 

ハムレット7

亡き父王の亡霊/國村隼さん、ハムレット/内野聖陽さん、ガートルード/浅野ゆう子さん
撮影:引地信彦

 
アンサンブルの皆さんを合わせて、キャストは総勢14人。登場人物が20〜30人と言われる『ハムレット』を、14人で作り上げるところに“ジョン・マジック”がありました。ホレイショー役の北村さんを除き、俳優の皆さんそれぞれが複数役を担うという斬新さ! とくに気になるのは、内野さんが主人公ハムレットと次代の王となるフォーティンブラス、その二役を演じることです。一体どのようにして…!? 

 

ハムレット5

ホレイショー/北村有起哉さん
撮影:引地信彦

 
ステージ上には能舞台を思わせる質素な四角舞台が中央に置かれ、その上手側は俳優たちが待機する空間、下手側は観客席の一部となっています。俳優が役に扮して舞台を行き来する瞬間を目撃することで、演劇のメタ構造を強く認識させられることに。

そう考えると、北村さん扮するホレイショーは語り部の立場であるとともに、現実から虚構へとつなぐ案内人のようにも思えてきます。シンプルな舞台空間に沁み入るように響く、藤原道山さんの尺八の音色。和のテイストを織り込んだ衣装からも、静的な中に潜む不穏な兆しが感じられて…。そんな飾り気のない劇空間に放たれるのは、俳優の体と、あふれるほどの言葉のみ。

 
ハムレット役の内野さんはきっちりと体を絞り、聡明な青年の姿となって登場。『真田丸』家康を演じた俳優と同一人物とはとても思えないカメレオンぶりです。俳優だから当たり前…と言われればそれまでですが、あらためて俳優の仕事の凄まじさを見る思いですね。内野ハムレットは、疑い、悩み、復讐を決意するけれど、“若気の至り感”といった青年の脆さは微塵もなく、どちらかというとキレ者の策士のよう。やっぱり聡明で頼もしい、ちょっとこれまでにない新鮮なハムレットです。
 
それだけに、哀れなオフィーリアの“置いてかれ感”がせつない…。貫地谷しほりさんの、可憐なだけでなく思慮深さもたたえた表情が素敵です。オフィーリアの気がふれる有名な場面の前に、彼女が徐々に狂気を帯びていく過程を感じさせる演出が出色。見つめるほどにゾゾ〜ッと背筋が寒くなり、哀しさもこみ上げてくるんですよね。
 
で、我が道をいくハムレットとのあいだの愛情がどうも見えにくい代わりに、レアティーズとの兄妹愛はとても微笑ましく感じ取ることができました。加藤和樹さん、妹を心配する仕種に朴訥さがにじんで魅力的です。途中、レアティーズの匂いは跡形もなく消して旅回りの役者へと巧みに転身。そこでも妖しい存在感を放ったかと思えば、クライマックスでは再びレアティーズの顔になり、精悍に内野ハムレットと剣を合わせるのです。

 

ハムレット8

レアティーズ/加藤和樹さん
撮影:引地信彦

 
そう、複数の役を担う“ジョン・マジック”です。その効果とは、戯曲に描かれた人間関係の面白さをさらに際立たせてくれること。ハムレットからフォーティンブラスへの転身は、「一体どのようにして…!?」なんて気を持たせておきながらネタバレになるので書けませんが(スミマセン汗)、「なるほど、その手があったか!」と心の中で膝を打つこと請け合いです。ひとりの俳優が担う二つの役、その関連性に込めたジョン・ケアードさんの狙いを探るのも楽しい。哀れに散ったオフィーリアを演じた貫地谷さんが、とぼけた味わいで決闘をけしかける侍従オズリックとなって再び登場するのはシニカルでもあり、またどこか救われる気持ちにもなったのでした。

 
アンサンブルの皆さんも、瞬時にさまざまな役柄に扮して重要な台詞もしっかりこなしながら、流れるような動きで場面を転換していく八面六臂の大活躍。普通の『ハムレット』なら大役、端役の格差が目に見えるのでしょうけど、なんたって14人しかいないから、全員が不可欠のドラマを動かす精鋭なのです。戯曲に忠実でありながら多くの仕掛けが施された、旨味と気づきの詰まった『ハムレット』。そんな印象を強く持ちました。

幕切れのホレイショー、北村有起哉さんのたたずまいにもハッとさせられます。ホレイショーは演劇を継ぎ渡す役目を終えて、“今を生きる北村さん”に戻っていったのかも……というのは筆者の雑感。はたして皆さんはどう思われるでしょうか。東京公演は残り少ないですが、5月には兵庫、高知、北九州、松本、上田、豊橋でも上演されます。ここはぜひゲキネバ!を決行して、ご自身の目で確かめていただきたいと思います。

それではまた、次回をお楽しみに♪

 

上野紀子(うえの のりこ)■
プロフィール
演劇ライター。桐朋学園芸術短大演劇科、劇団文学座附属演劇研究所卒。『シアターガイド』『BEST STAGE』など演劇情報誌のほか、公演プログラムにて執筆。韓国演劇に関心を持ち、『シアターガイド』では2004年から韓国演劇情報を約十年に渡り連載した。2008年、文化庁在外研修で一年間ソウルに留学。高麗大学韓国語文化教育センター定期課程修了。韓国演劇を気にかけながらも、現在は日本のステージシーンのほうを注視している。BUTAKOMEイベントで時々MCも頑張ってます♪
 

 
 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■

ハムレットポスター

『ハムレット』

作:ウィリアム・シェイクスピア

翻訳:松岡和子

上演台本:ジョン・ケアード 今井麻緒子

演出:ジョン・ケアード

音楽・演奏:藤原道山

出演:
内野聖陽
貫地谷しほり
北村有起哉
加藤和樹
山口馬木也
今 拓哉
大重わたる・村岡哲至・内堀律子・深見由真
壤 晴彦
村井國夫
浅野ゆう子
國村 隼

日程・会場
■東京公演 
2017年4月9日(日)~4月28日(金) 東京芸術劇場 プレイハウス
※4月7日(金)・8日(土) プレビュー公演
料金:S席9,000円 ステージサイドシート8,500円 A席7,000円

■兵庫公演
2017年5月3日(水・祝)~7日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

■高知公演
2017年5月10日(水)高知市文化プラザかるぽーと大ホール

■北九州公演
2017年5月13日(土) ・14日(日) 北九州芸術劇場 大ホール

■松本公演
2017年5月17日(水)まつもと市民芸術館 主ホール

■上田公演
2017年5月21日(日) 上田市交流文化芸術センター 大ホール

■豊橋公演
2017年5月24日(水)~26日(金)穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

詳細は『ハムレット』公式HP

 
 

 

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

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📹【加藤和樹のエンタメCafe No.8】〈池袋エリ..

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.7 一味違った楽しさとパワ..

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
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