BUTAKOMEステージレビュー<劇場に行かねば!>

【ゲキネバ!】Vol.3 妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』

2017/05/17


 

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社長秘書/小林タカ鹿さん、竹中郁子/銀粉蝶さん
撮影:細野晋司

 

ステージ雑感「ゲキネバ!」
Vol.3 『上を下へのジレッタ』

 
劇場へ行かねば! ムリヤリ略して『ゲキネバ!』の連載も早3回目。今回は、5月7日にBunkamuraシアターコクーンで開幕した妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』です(6月4日まで。6月10〜19日、大阪・森ノ宮ピロティホールでの公演あり)。この舞台は手塚治虫さんが1968年に発表した同名漫画を原作としたもので、その壮大かつ奇想天外な世界観を知る人なら、「え! アレを舞台にするなんて、いったいどうやって!?」と驚くこと請け合いです。ざっくりとあらすじ&キャストをご紹介しますと…。

 
自称・天才テレビディレクターの門前市郎(横山裕)は、大手芸能プロダクション社長(銀粉蝶)の逆鱗に触れてテレビ局をクビになってしまいます。しかし自信満々の彼は「いい機会だ」という謎の理由で妻の間リエ(本仮屋ユイカ)に離婚を切り出し、すぐさま次なる野望へと突き進むことに。そこで出会ったのは、普段は不器量だけど、死ぬほど空腹になると絶世の美女に変身する特異体質の歌手、小百合チエ(中川翔子)でした。門前は、彼女を売り出すために世界的スターのジミー・アンドリュウス(馬場徹)との共演を企てます。

ある日チエの同郷の恋人、山辺音彦(浜野謙太)が現れて、門前とチエを巡っての諍いが勃発。言い争いの果てに、山辺は過って工事現場の穴の底に落ちてしまいます。驚いてその場を逃げ出してしまった門前でしたが、翌日その穴が埋められたことを知り、山辺は死んで、このまま発見されないだろうと思い込むのでした。

ところが山辺は生きていた! 閉じ込められたビルの奥底で、山辺は自身の妄想によって作られる“ジレッタ”=バーチャル・リアリティの世界を体験していたのです。やがて山辺の生存を知った門前も、山辺の体を媒介としてジレッタを体験。このジレッタこそ、テレビを超えた新たなメディアになり得ると確信した門前は、さらなる野望をたぎらせます。会社社長の有木足(ありき・たり=竹中直人)をスポンサーに抱き込んで、世界市場のみならず政界にまでも影響を及ぼす計画を立てるのでした。
 

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ジミー・アンドリュウス/馬場徹さん
撮影:細野晋司

 
ふう。「ざっくり」と言いながら長くなってしまいました。なんたって原作が、読み進めるほどにその世界が飛躍していく長編漫画、宇宙規模で展開する空想大活劇。半世紀も前にバーチャル・リアリティを題材として描かれた“異色の傑作”です。今回の舞台の脚本・演出を手がけたのは劇団ペンギンプルペイルパイルズを主宰する倉持裕さん。子供の頃に出会った本作が「自身の作品世界に多大な影響をもたらしている」と語っています。その思い入れの深い作品を舞台化するにあたり、倉持さんが狙いを定めて打ち出したのは“妄想歌謡劇”というスタイルでした。
 
 そう、幕開きから登場人物たちが、とことん歌い、踊る! 観客はそのテンポの良さに心地良くあおられながら、舞台に広がる劇画調のユニークな空気を違和感なく受け入れていったように感じました。宮川彬良さんが生み出したメロディの数々は、ところどころに昭和のヒット歌謡の香りが漂って、なんともキャッチー。それでいてどこか近未来的なポップさも漂います。
 
 ダークヒーローである主人公、門前を演じる横山裕さんですが、事情により写真でご紹介できないのが地団駄踏むほど残念〜! クールな素振りの中に熱い野心をひそませ、勝ち気な笑みをたたえた表情がなんとも素敵なのです。アイデアマン門前の猪突猛進をスマートに見せていく、そのダンスと歌に強烈に惹き付けられました。全身黒のスーツに身を固めてシブく立ち回りながらも、やっぱり皆の視線をとらえて離さない“華”のある人です。
 

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小百合チエ/中川翔子さん
撮影:細野晋司

 
そして気になるのは小百合チエ! 不器量で“ミス丸太ん棒”と呼ばれた太めの女の子と、空腹時に現れる絶世のスレンダー美女、この両方を中川翔子さんが演じます。そのカラクリは見てのお楽しみですが、「これぞ演劇の魔法!」といったワザを期待していたところ、予想外にアナログな手法だったので大笑い。そんなところも良い案配に手塚漫画の時代感を誘います。中川さん、太ったり痩せたりとヘンな女の子だけれど、その中身は実力を持った歌手の役。それを十分に納得させる美声と可憐なダンスで魅了してくれました。
 

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山辺音彦/浜野謙太さん
撮影:細野晋司

 
手塚先生がご覧になったらきっと大満足していただけるのでは…と思える今回のキャスティングの中でも、本当に漫画の中の山辺音彦がそのまま飛び出してきた!と感じたのが浜野謙太さんです。人気バンド“在日ファンク”のリーダーである浜野さんは、倉持さん作・演出の舞台『夜更かしの女たち』(2013年)で初舞台を踏んでいるんですね。きっと倉持さんは早くから、浜野さんを山辺役にと狙っていたに違いない! 山辺はなんたってジレッタの生みの親ですから、作品のキーマン。その重責を十二分に果たす大活躍を見せてくれました。
 

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間リエ/本仮屋ユイカさん
撮影:細野晋司

 
本仮屋ユイカさん演じる間リエは、あの自信家の門前が本心をさらけ出し、弱気を見せる唯一の存在。自分勝手な門前に腹を立てながらも、なぜか世話を焼いてしまう…。そんなオンナゴコロに多くの女性観客が共感し、自己投影するキャラクターかもしれません。尖ったキャラクター満載の中、本仮屋さんは控えめながらも凛とした立ち姿で、母性の優しさが覗く知的美人を表現。
 

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有木足(ありき・たり)/竹中直人さん
撮影:細野晋司

 
銀粉蝶さん、竹中直人さん、馬場徹さん、そして倉持さんの劇団メンバーでもある小林タカ鹿さん玉置孝匡さんのほか、アンサンブルの皆さんはすべて複数の役柄を担って舞台上を縦横無尽に駆け回ります。親しみやすい歌謡メロディに乗った華やかな個性の競演、その面白さにグングン引きつけられながら、その一方でじわじわと胸にせり上がってくるのは、とめどない人間の欲望、慢心、もしくは他者への無関心への恐怖感。にぎやかなダンスシーンのその歌詞に、シニカルな現状批判が込められていてドキッとすることも。手塚治虫が半世紀前に提起した問題意識が、今の日本に生きる私たちに確かにつながっている…、そう痛感せずにいられない瞬間も訪れたのでした。
 
 門前が自身の野望の果てに、世界を巻き添えに破滅していくラストは圧巻。……ってことまで書いてしまうのは、これから観劇予定の方にはぜひとも原作漫画を読まれてから観ることをオススメしたいからです。いえ、もちろん予備知識なく観ても、舞台そのものが放つエネルギーだけで存分に楽しめる舞台ではあります! でも原作を知るゆえに、「ああ、演劇ってこんなふうに世界を立ち上げることができるんだ!」といった感動を味わい、倉持さんの、あふれんばかりのジレッタ愛も感じ取ることができるのではないでしょうか。
 
 ゲキネバ! まだまだ続きますよ! 次回もお楽しみに♪

 

上野紀子(うえの のりこ)■
プロフィール
演劇ライター。桐朋学園芸術短大演劇科、劇団文学座附属演劇研究所卒。『シアターガイド』『BEST STAGE』など演劇情報誌のほか、公演プログラムにて執筆。韓国演劇に関心を持ち、『シアターガイド』では2004年から韓国演劇情報を約十年に渡り連載した。2008年、文化庁在外研修で一年間ソウルに留学。高麗大学韓国語文化教育センター定期課程修了。韓国演劇を気にかけながらも、現在は日本のステージシーンのほうを注視している。BUTAKOMEイベントで時々MCも頑張ってます♪
 

 
 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■

妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』

原作:手塚治虫
脚本・演出:倉持裕
出演:
横山 裕、中川翔子、浜野謙太、本仮屋ユイカ、小林タカ鹿、玉置孝匡、馬場 徹、銀粉蝶、竹中直人
浅川文也、仙名 立宗、高木英和、高瀬育海、江見ひかる、木内 栞、香月彩里、佐久間夕貴、鈴木さあや、田口恵那、花瑛ちほ、麻尋えりか

日程・会場
■東京公演 
2017年5月7日(日)~6月4日(日) Bunkamuraシアターコクーン
料金:S席 11,500円、A席9,000円、コクーンシート6,000円

■大阪公演
2017年6月10日(土)~19日(月) 森ノ宮ピロティホール

詳細は『上を下へのジレッタ』公式HP

 
 

 

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Profile

ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)、「松任谷正隆のディア・パートナー」(FM東京)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト
【Official blog】松也日記(アメブロ公式)  
【自主公演サイト】挑むオフィシャルホームページ  

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📹【加藤和樹のエンタメCafe No.8】〈池袋エリ..

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.7 一味違った楽しさとパワ..

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
【Official Twitter】木ノ下裕一 Twitter

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