大原薫の観劇コラム

【大原薫の観劇コラム】Vol.2『春のめざめ』

2017/06/02


 

志尊 淳

メルヒオール/志尊淳さん
撮影:二石友希

 
大原薫の観劇コラム第2回は『春のめざめ』。少年少女期の生と性を描いた約130年前のドイツの戯曲をKAAT神奈川芸術劇場芸術監督の白井晃さんが演出し、「現代に生きる人たちの物語」として描いた。志尊淳さん大野いとさん栗原類さんら若手キャストの好演が光る舞台をレポート。

 
上演されたKAAT神奈川芸術劇場大スタジオは約200席の小空間。スペースを横長に使い、最後列でも7列目という身近に見られる劇場だ。開演前から、ふらり、ふらりと学生の制服に身を包んだキャストが現れ、私たちと並んで客席に座る。たまたまキャストが座る席の近くだったのだが、キャストがチラシの入ったビニール袋を持ち上げ、膝の上に乗せて座っている姿が見えた。そう、私たちと同じように。開幕時間になると彼らは私たちの中から立ち上がり、演じ始める。

原作は130年前のフランク・ヴェデキントの戯曲だが、古典として演じるのではなく現代の物語として描きたいという演出の白井晃さんの意図が、開幕前から伝わってきた。

KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督として、近代戯曲を現代に蘇らせるシリーズに取り組んでいる白井さんが、2017年度の芸術監督演出作品第一弾として取り上げたのが、この『春のめざめ』だ。観劇後、岩波文庫からこの春出版された本戯曲の文庫本を読んだが、翻訳の酒寄進一さんの解説によると、2007年に白井さんから「いつか『春のめざめ』を上演したい」と言われたのが翻訳のきっかけとのことだ。

ちなみに訳注が多く掲載されていて、メルヒオールが「ヘブライ語で『光の君』を意味」、モーリッツが「ギリシア語のマウロス(「黒」の意)に由来」し、二人が「光と闇を象徴づけられている」という大変興味深い記述もあった。ミュージカル版『春のめざめ』が好きな方にも読んでいただきたい戯曲版だ。
 

春のめざめ

メルヒオール/志尊淳さん、モーリッツ/栗原類さん
撮影:二石友希

 
舞台は130年前のドイツ。ドイツのギムナジウムで厳しい教育を詰め込まれる優等生のメルヒオールと劣等生のモーリッツ、幼馴染のヴェントラを主軸に、少年少女たちの性のめざめ、妊娠、自殺を描いたショッキングなストーリーだ。

大人たちによる少年少女への厳しい抑圧、管理は現在も変わらない。それを視覚化したのが、舞台三方を取り囲む透明のアクリルの壁だ。これが、少年少女たちの自由な心を阻む見えない壁のようでもあり、生者と死者を分かつ紙一重の皮膜のようでもある。そして、少年たちが各々白いクリームを手に取り、アクリルに塗り付けるという視覚的に衝撃的な展開もある。大人役のキャストたちは高いバルコニーに立ち、少年少女たちを見下ろす。

抒情に流されず硬質な筆致で描かれた中に、少年少女たちの葛藤が繊細に息づいた。そのリアルな姿に心動かされた。キャスティングとしては、「彼らが人前で表現することと、主人公らが社会と対峙していくこととの相似性が描ければ」という思いで、白井さんは舞台経験が浅いメンバーをあえて選んだという。

ストレートプレイは今回が初挑戦となる志尊淳さんがメルヒオールに肉薄する。ご自分のリアルな内面を落とし込んで演じたであろうメルヒオールに、思いがほとばしる。瑞々しい感性があふれ、まさに志尊さんが「新たな扉を開いた」舞台となった。

 

栗原類

モーリッツ/栗原類さん
撮影:二石友希

 
目を見張ったのは栗原類さんのモーリッツだ。絶望とかすかな希望を行き来する、振幅の大きさ。モーリッツのナイーブな精神が、栗原さんの演じる姿にそのまま映し出されて、心を揺さぶられた。特に終幕、闇に消えていく姿が切なく忘れがたい。

大野いとさんのヴェントラの生命力のある姿も初々しく、少女らしい輝きに満ち溢れた。

春のめざめ

ヴェントラ/大野いとさん
撮影:二石友希

古典戯曲だが、語り口調は現代の若者言葉。そしてDragon Ashの降谷建志さんの音楽はシャープかつエモーショナルだ。私事だが、ミュージカル版『春のめざめ』は私がもっとも好きな作品の一つである。なぜ、私を含め多くの人たちは、この題材に惹かれるのか。それは130年前のドイツも今の日本も、社会の抑圧も管理も何も変わらないということが一つ。しかし、この作品は抑圧を声高に描くだけではない。どんなに抑圧されていても、葛藤を胸に抱きながらも少年少女たちは自分の生を生きる。その一瞬の輝きとほとばしる思いに圧倒されるほどのエネルギーを感じるからこそ、『春のめざめ』という作品に惹かれるのだろう。
 

大原 薫(おおはら・かおる)■
プロフィール
演劇ライターとして雑誌(BEST STAGE、Sparkle、STAGE NAVI、ミュージカルなど)や公演パンフレットなどで執筆。ラミン・カリムルー、レア・サロンガ、シンディ・ローパー、ハーヴェイ・ファイアスタインなど海外ミュージカルスター・クリエイターにも精力的に取材する。ブロードウェイミュージカルの魅力に惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝える。テレビ番組『アカデミーナイトG』に「4000本以上を観劇したカリスマ演劇ライター」として出演、ミュージカル『ビリー・エリオット』の魅力を熱弁した。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び!
 

 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■
 

『春のめざめ』
 
原作:フランク・ヴェデキント 翻訳:酒寄進一

音楽:降谷建志

構成・演出:白井 晃

出演:志尊 淳 大野いと 栗原類 
小川ゲン 中別府葵 北浦愛 安藤輪子 古木将也 吉田健悟 長友郁真 山根大弥
あめくみちこ 河内大和 那須佐代子 大鷹明良

日時・会場
■北九州公演
2017年6月4日(日) 13:00 北九州芸術劇場 中劇場(前売予定枚数終了)

■兵庫公演
2017年6月10日(土)~11日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

※公演の詳細は公式サイト

 

 

BUTAKOME☆INFORMATION

『生中継!第71回トニー賞授賞式』
6月12日(月)午前8時から、字幕版は6月17日(土)午後7時から
WOWOWプライムにて放送

スペシャル・サポーターは井上芳雄さん!!

inoueyoshio tony 0517

★★★WOWOW『第71回トニー賞』公式サイトへ★★★

 
 

 

BUTAKOME ファンクラブ
【LINE@ はじめました】
先行販売・お得なチケット情報をお届けします♪

LINEアプリの「友だち追加」から
ID:@butakome を検索するか、
下記の友だち追加ボタンから登録してください。

友だち追加数

 

※画像およびテキストの転載を禁止します。

バックナンバー

インタビュー

加藤和樹3

加藤和樹

『レディ・ベス』は男性が見てもぐっとくる作品なんです

チケット購入

一覧はこちら

BUTAKOME動画チャンネル

連載☆エンタメコラム

2017/08/04

ビリー・ハーリガン・タイ×中井美穂 スぺシャル対談☆ブロードウェイミ..

open

close

Profile

ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
【Official HP】 中井美穂 INFORMATION
【Official blog】中井美穂(アメブロ公式)

2017/03/31

大ヒット上映中!!ディズニー映画『モアナと伝説の海』4DX/MX4D..

open

close

Profile

1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト
【Official blog】松也日記(アメブロ公式)  
【自主公演サイト】挑むオフィシャルホームページ  

2017/03/22

📹【加藤和樹のエンタメCafe No.8】〈池袋エリ..

open

close

Profile

1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

【Official HP】 公式サイト
【Official blog】 公式ブログ

2016/11/29

【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.7 一味違った楽しさとパワ..

open

close

Profile

木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
【Official Twitter】木ノ下裕一 Twitter

クラシック音楽界のきら星たちに注目

NYから直送!「最新ブロードウェイミュージカルレポート」

ブタコメ編集部

関連サイト

  • LIVING COLLECTION
  • LIVING
  • CITY LIVING
  • あんふぁん
  • シュフモ
  • Lei wedding net