大原薫の観劇コラム

【大原薫の観劇コラム】Vol.4『星の王子さま』~ミュージカルの”王子さま”井上芳雄さんが演じる芳醇な音楽劇

2017/08/16


大原薫コラム4-1(星の王子様)

井上芳雄さん(写真左)、上白石萌歌さん

 
サン=テグジュペリの名作を井上芳雄さんが七変化で見せる音楽劇『星の王子さま』。8月8日、9日に東京公演が行われた。ミュージカル界のプリンスと呼ばれる井上さんが紡ぎ出す新感覚の音楽劇。想像力が刺激される、濃密な劇空間を作り上げた。

 
舞台上にはテーブルと椅子、本棚、クローゼット。そして脇には生演奏するピアノ、バイオリン、チェロが見えるだけのシンプルな空間。井上芳雄さん演じる飛行士が登場し、砂漠に不時着したときに出会った不思議な少年「星の王子さま」との思い出を語り始める。原作者サン=テグジュペリは実際に飛行士だったという。作者自身と重なって感じられる飛行士役を井上さんが本を片手に語り、深みのある声と確かな表現力で物語世界を押し広げていく。
 
クローゼットの扉が開くと、星の王子さまが登場した。

飛行士が存在するリアルな世界から一気にファンタジーの世界へと飛ばして、想像力をかき立てる演出だ。それ以外にも様々なキャラクターがクローゼットから現れる。それは『ナルニア国物語』で、古い屋敷のクローゼットが魔女の支配するファンタジーの世界とつながっているのを連想させる(あるいは渡辺えりさんの『ゲゲゲのげ』の押し入れ)。現実とファンタジーは実は地続きにあるのだと、そんなこともイメージさせられる効果があった。

 
飛行士は、砂漠に一人孤独でいた王子と友達に。そして、王子はここまでの旅について語り始める。
王子は小さな星に一人で住んでいたが、育てていたバラのわがままに我慢できず、星から飛び出す。その後、王様やうぬぼれ男などが住む星を巡り、7番目に訪れた星が地球だった。
 

大原薫の演劇コラム4-2

(左から)木村花代さん、井上芳雄さん、上白石萌歌さん

 

井上さんは飛行士の他、王子が訪れた星にいた6人のキャラクターを次々に演じる。飛行士の静かなトーンの語りからの鮮やかな変化も本作の見どころの一つだ。うぬぼれ男ではアドリブを交えて、客席を爆笑に誘い込む。王様、のんべえ、ビジネスマンなど早変わりで次々に新たなキャラクターが登場するのが実に楽しい。どこかおかしい人物の登場が続く中で、一転して自分の役目に忠実な点燈夫の存在を際立たせるのも効果的だ。

 
星の王子さまを演じるのは、上白石萌歌さん。絵本でおなじみの「王子さま」スタイルに身を包んだ上白石さんは伸びやかに、そして繊細に王子を体現して見せる。井上さんと生き生きした掛け合いを見せて、優れた演技センスをうかがわせた。

 
バラ、きつね、へびを演じるのは木村花代さん。バラの花はあでやかに美しく(バラの花を体現する衣装も見もの)、へびはセクシーで危険に。中でも、王子との友情をはぐくむきつねのあたたかさが印象に残る。「飼いならす」ことでほかのものにはない特別な情愛が湧いてくることを教え、人と人との関係性の大切さを感じさせた。

 
終幕、自分の星に帰ろうとする王子と飛行士の「別れ」のシーンは井上さんの目にも涙が浮かんだ。

「大切なものは目には見えない」。

井上さん、上白石さん、木村さんと共に心の旅を続けるうちに、その世界と共振し、作品のテーマが深く胸に刻まれた。
 

大原薫の演劇コラム4-3

 

決して大規模な舞台ではない。登場するのは3人(と演奏の3人)だけ。それでも、芝居と歌と踊りの力で現実にはないファンタジーの世界にひととき飛ばされ、現実に帰って来たときにはあるメッセージが心に残る。まるで演劇の原点を見るような、豊かな公演だった。

 
井上芳雄さんのりゅーとぴあ(公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団)発の公演といえば、『星の王子さま』に先行して『井上芳雄による「夜と霧」~苦しみの果て、それでも人生に然りと云う~』があった。これは、アウシュヴィッツのユダヤ人強制収容所から生還した医師、フランクルが実体験をもとに書いた名著「夜と霧」の朗読劇。井上さん自身が「生涯の一冊」としている本だという。
 
もちろん目をそらしてはいけない問題だとは思うけれど、進んで手に取って読むにはあまりに内容が辛すぎる……。そう思って、「夜と霧」を読んでいなかった人もいるだろう(私もその一人だ)。しかし「井上さんがやるなら」と思い、舞台中継を見て、劇場に足を運んだ。非常に冷静な語り口で激情に流されず、フランクルの言葉を丁寧に語る井上さん。見ているうちに次第に引き込まれた。そして、これほど過酷な状況の中でも、どうしたら人間としての尊厳を失わずに生きていられるのだろうかと思わずにはいられなかった。

 
私同様、「井上さんが出るなら」と初めて「夜と霧」に出会った人も多かっただろう。そういう点では非常に意味がある上演だったと思うし、地域密着型で発信するりゅーとぴあならではの上質な企画で、今回新たに『星の王子さま』が上演されたのも喜ばしいことだ。

また、「ミュージカル界のプリンス」として知られる井上さんだが、ミュージカルに留まらず演劇全般に誠実に取り組んできた成果が如実に表れた公演でもあった。

今回は東京は2日間という短期の公演だったが、井上さんの新たなライフワークとしてまたぜひ再演を繰り返していってほしい。

 

 
大原 薫(おおはら・かおる)■
プロフィール
演劇ライターとして雑誌(BEST STAGE、Sparkle、STAGE NAVI、ミュージカルなど)や公演パンフレットなどで執筆。ラミン・カリムルー、レア・サロンガ、シンディ・ローパー、ハーヴェイ・ファイアスタインなど海外ミュージカルスター・クリエイターにも精力的に取材する。ブロードウェイミュージカルの魅力に惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝える。テレビ番組『アカデミーナイトG』に「4000本以上を観劇したカリスマ演劇ライター」として出演、ミュージカル『ビリー・エリオット』の魅力を熱弁した。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び!
 

 
💡NEWS💡
りゅーとぴあプロデュース『星の王子さま』
WOWOWにて放送決定!!
放送日時:9月30日(土)20:30
詳細はWOWOW公式HP
 

 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■
 
りゅーとぴあプロデュース『星の王子さま』

 
原作:サン=テグジュペリ
上演台本・演出:笹部博司
作曲(歌):野瀬珠美
作曲(効果):大貫祐一郎
振付・ステージング:舘形比呂一
 
出演:井上芳雄、木村花代、上白石萌歌
 
ピアノ:大貫祐一郎
ヴァイオリン:大河内涼子
チェロ:渡邉雅弦
 

■新潟公演:2017年6月29日(木)19:00
新潟市音楽文化会館ホール

■東京公演:2017年8月8日(火)14:00(公開ゲネプロ)・19:00、8月9日(水)13:00/17:00
東京芸術劇場プレイハウス
 

主催:公益財団法人新潟市芸術文化振興財団
 
※公演の詳細はコチラ
 

 
 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■
 

謎の変奏曲ビジュアル

『謎の変奏曲』

作:エリック=エマニュエル・シュミット
演出:森新太郎
翻訳:岩切正一郎

出演:橋爪功 井上芳雄

 
東京公演:世田谷パブリックシアター
日時:2017年9月15日(金)・19日(火)・20日(水)・21日(木)・22日(金)14:00
9月16日(土)17:30
9月20日(水)18:30
★チケット購入はコチラから
 
大阪公演:サンケイホールブリーゼ
9月30日(土)17:30
★チケット購入はコチラから

 

※公演の詳細は『謎の変奏曲』公式HP

 
 

BUTAKOME☆INFORMATION

グリーンフラッグス

WOWOWオリジナルミュージカルコメディ
福田雄一×井上芳雄「グリーン&ブラックス」

全12回/月1回放送

ゲスト出演者:中川晃教、柿澤勇人、加藤和樹、渡辺麻友、愛原実花、相葉裕樹 ほか

舞台や映像の世界で活躍する2人、福田雄一と井上芳雄がスターを迎え贈るミュージカル・コメディ。福田節炸裂のドラマや、歌、トークがぎゅっと詰まった極上アワー。

歌と演技とダンス、そのすべてのジャンルにおいてプロフェッショナルであることが求められる、ミュージカル俳優。ミュージカルを上演している劇場の楽屋では、そんなミュージカル俳優の実態を垣間見ることができる。ミュージカルの物語には、ラブシーンがつきもの。特にキスシーンに備え、ミュージカル俳優はどんな準備をしているのか。焼き肉に行った翌日は?特殊な消臭能力を備えている?ミュージカル・パフューム論が白熱する。

wowow公式サイトより

 
💡8/26(土)深夜0:00放送(#5)💡
コメディドラマ:井上芳雄、濱田めぐみ、柿澤勇人、平方元基、川久保拓司
歌:井上芳雄、城田優、田代万里生、平方元基
トーク:井上芳雄、愛原実花、相葉裕樹、柿澤勇人、川久保拓司、城田優、濱田めぐみ、平方元基、福田雄一
 (50音順)

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詳しくはWOWOW公式HP
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【中井美穂のヅカヅカ行くわよ♪<番外編>】『謎の変奏曲』橋爪功さん×..

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Profile

ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
【Official HP】 中井美穂 INFORMATION
【Official blog】中井美穂(アメブロ公式)

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【速報】尾上松也さんが『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』..

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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト
【Official blog】松也日記(アメブロ公式)  
【自主公演サイト】挑むオフィシャルホームページ  

2017/11/12

📹【加藤和樹のエンタメCafe No.10】〈銀座エ..

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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2016/11/29

【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.7 一味違った楽しさとパワ..

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
【Official Twitter】木ノ下裕一 Twitter

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