大原薫の観劇コラム

【大原薫の観劇コラム】Vol.3『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』 ~私たちはビリー・エリオットに何を求めるのか?

2017/07/24


加藤航世

前列中央ビリー役:加藤航世さん 後列中央ウィルキンソン先生役:柚希礼音さん
撮影:阿部高之

 
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』のプレビュー公演初日を観劇した。

BUTAKOMEではメインキャストの皆さんへの取材を担当。特にビリー役については出演決定お披露目会見の日に単独インタビューを行って以来、取材やインタビューを重ねてその成長を見続けてきた。それだけに「いよいよこの日が来たか」という思いが強い。

また筆者自身がTBSテレビ『アカデミーナイトG』に出演して作品の魅力を語らせていただいたこともあり、特別な思いでプレビュー初日を見届けた。

プレビュー初日速報に続いて、日本版『ビリー・エリオット』の魅力に迫る。

 

プレビュー公演をへて、全126公演、異例のロングランとなる『ビリー・エリオット』が明日(7月25日)からいよいよ開幕する。
 
思い起こせば、私がロンドンで初めて『ビリー・エリオット』を見たのは2005年。今回の日本版ビリー役のキャストが生まれるか生まれないかくらいのころだ(最年少の木村咲哉さんにいたっては生まれる2年前!)。見て非常に感激したし、実際3回涙したけれども、「これは日本ではできない作品だ」と思ったのも事実。
それはビリー役のポテンシャルの高さで、バレエ、ダンス、アクロバット、歌、演技とこれだけをこなす少年を、それも複数揃えるのは無理だと思ったのともう一つ。これは実際にイギリスであった炭鉱ストライキを題材にしたミュージカルだということだ。
 
警官隊と炭鉱夫たちの激しい対立のシーンもある。
日本でデモ隊と警官隊が出てくる舞台作品として一番有名なのはつかこうへいさん『飛龍伝』だろうか。しかし、あれはストレートプレイ。
リアルに地に足がついた炭鉱夫たちがミュージカルで、歌い踊る。2005年の私には想像できなかったし「ああ、これは日本では無理だな」と思ったのだ。
 
そして12年後の今。『ビリー・エリオット』は日本で幕を開いた。……見事だった。脱帽した。舞台に登場する皆さんのお一人お一人が、キャラクターを持った人間としてその場にいた。1曲目の「The Stars Look Down」の厚みのある歌声から、彼らの思いが歌になり踊りになり、そして演技になったのが見て取れた。だから、私たちは自然と1984年のイギリスの炭鉱町の世界にすっぽりと入り込むことができたのだ。
 
特に印象深いのはバレエ教室のピアノ奏者、ブレイスウェイト(森山大輔さん)。巨体を揺らしながら(!)ビリーにもウィルキンソン先生にも負けない勢いで激しく歌い踊るのが、なんともおかしい。際立ったキャラとテンションでありながら、リアルな存在感があるというのは海外のミュージカルではよく見るけれど、日本ではなかなか見られないもの。彼一人をとってみても、『ビリー・エリオット』が今までの日本のミュージカルとは一線を画していることがわかるだろう。

 
未来和樹

(左より)ビリー役:未来和樹さん マイケル役:持田唯颯さん

 
何より、この作品にリアルな息吹を吹き込んでいるのがビリーの父親役の存在だろう。プレビュー初日に観劇した父親役は吉田鋼太郎さん。存在感が屹立していた。3年前に妻を亡くし、心の穴を埋められない人物で、バレエを志すビリーの気持ちがまったく理解できない。ビリーに対して大きな壁として立ちはだかるが、やがてビリーの真剣な思いに触れて、息子のために……と心を変えていく。斜陽産業である炭鉱で働く男の人生がそのまま舞台に切り取られているような感覚があって、吉田さんの父親の存在によって、作品の重心がぐっと低くなった。

 
そして、ビリーの才能を見出すバレエ教師のウィルキンソン先生。プレビュー初日で見た柚希礼音さんは「自分らしく輝いていればいい」と歌い踊る「Shine」のナンバーは羽根扇に囲まれるのが似合う華やかさ。初めは「男の子がバレエにいてもちょっと面白いかも…」くらいの気持ちだが、徐々にビリーの才能に気づき、彼を世に出すための道をつけようとする。ビリーを指導する目線の真剣さに、彼女の熱がこもる。宝塚歌劇団退団後の柚希さんが「見守る立場」の役柄を演じるのは初めてだが、真摯にこの役柄に取り組んでいるのが見て取れた。これが役者=柚希さんの新たなスタートともいえるのではないか。

 
shine

ビリー役:木村咲哉さん ウィルキンソン役:島田歌穂さん

 
この作品の肝となるのが、ビリー・エリオット。大人たちの思いを動かし、そして思いを託す存在である。
炭鉱町で育った少年ビリーは、偶然にバレエと出会い、少しずつ踊りたいという気持ちに目覚めていく。
ビリー役に抜擢された加藤航世さん、木村咲哉さん、前田晴翔さん、未来和樹さん、山城力さんのうち、プレビュー初日に演じたのは前田晴翔さん。

 
前田晴翔

ビリー役  前田晴翔さん

 
初めは動きもおぼつかなかったビリーがウィルキンソン先生の指導を受けて徐々に踊れるようになり、やがて「僕は踊りたい!」という意志を持つようになる。その変化の過程が非常に鮮やかだ。
中でも父親にバレエを禁じられて、思いを爆発される「Angry Dance」はまさに魂の叫び。全身からみなぎるパワーに圧倒された。

ビリーと同様に「踊りたい!」という気持ちを体現する前田さんの演技には一点の嘘もなく、曇りもない。少年だけが出せるまっすぐな輝きが舞台に満ちた。

この舞台のためにビリー役の5人は1年半もの間レッスンを重ね、準備してきたという。前田さんのビリーを見ているうちに、次第に観客たちも「頑張れ!」と彼に思いを託していく。劇中の大人たちと同じように。

 
木村咲哉

ビリー役  木村咲哉さん

 
もちろん、人生は厳しい。劇中で描かれている炭鉱の未来も決して明るいものではない。そういう意味では「すべてがうまく終わって、めでたしめでたし」というタイプの作品ではない。
でも、清々しく前を向いて羽ばたいていく少年を見て、大人たちも自分を振り返る。そして、これから先のことを考える。

ちなみに私がこの作品でもっとも愛するシーンがカーテンコールだ。ビリーもウィルキンソン先生もお父さんも炭鉱夫たちも心から嬉しそうに踊る(ちょっと特別な格好で!)。
ビリーが「Electricity」の場面で「踊っているとき、僕は自由だ」と言うように、魂の自由さがステージに満ち溢れる。高揚感が劇場中を包み、舞台も客席も一体となる。私たちもビリーの思いに共振し、「自由でありたい」という気持ちを持つ……とてつもないパワーを放つ作品が『ビリー・エリオット』なのだ。

 

取材・文 / 演劇ライター・大原薫
撮影:阿部高之

大原 薫(おおはら・かおる)■
プロフィール
演劇ライターとして雑誌(BEST STAGE、Sparkle、STAGE NAVI、ミュージカルなど)や公演パンフレットなどで執筆。ラミン・カリムルー、レア・サロンガ、シンディ・ローパー、ハーヴェイ・ファイアスタインなど海外ミュージカルスター・クリエイターにも精力的に取材する。ブロードウェイミュージカルの魅力に惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝える。テレビ番組『アカデミーナイトG』に「4000本以上を観劇したカリスマ演劇ライター」として出演、ミュージカル『ビリー・エリオット』の魅力を熱弁した。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び!
 

💡大原薫さんが執筆した『ビリー・エリオット』記事
日本初代ビリー4人に直撃インタビュー
吉田鋼太郎さんインタビュー
島田歌穂さんインタビュー
5人目のビリー役・山城力が追加決定 / 4人のビリーにインタビューVol.2
囲み取材(稽古場) ~「明日から頑張ろう」という気に必ずなれる作品です~
パフォーマンス披露!伝助再び!? 吉田鋼太郎が九州弁で登場&柚希礼音がバレエを熱血指導!
速報☆プレビュー初日レポート~鳴りやまない拍手、ビリーの熱い夏が始まる!
 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■
 
ビリーエリオット新ビジュアル0601

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.7 一味違った楽しさとパワ..

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

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