中井美穂のヅカヅカ行くわよ♪

【中井美穂のヅカヅカ行くわよ♪ Vol.37】岩井秀人×中井美穂 Special対談▷ハイバイ15周年記念『て』『夫婦』同時上演!

2018/08/10


 

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見ている人に、自分の生きてきた道を
また辿るような時間を持ってもらいたい

 
中井 やっぱり『て』があっての『夫婦』なんですよね。
 
岩井 そう、『て』があっての『夫婦』だし、『て』があっての、そこから先の作品だと思います。自分の体感とか現実から話を起こすことが僕の作劇のやり方だと、これで確信したっていうか。『て』までは、自分の経験のことを書いたものもあるけど、フィクションみたいなものも書いていて。あとはやっぱり、すごく“小劇場シーン”みたいなものを気にしていたんじゃないですか。
 
中井 小劇場の中で、どういう位置に自分が入りたいのか、ってことですか?
 
岩井 そう。あとは日本の演劇界でどうなりたい、みたいなことを考えていたけど、当時いっさい打つ手がなかった。だけど下北沢の駅前劇場でやることが決まっていて、超プレッシャーになっていたというか。その時に、本当に書きたいこと、皆に見せたいものがないと思っていたけど、“あの時間”のことなら書けると思った。それがまさに『て』の中にあるストーリーで、ゲンコツ野郎の父親のもとから離れて暮らしていたウチの家族が、祖母がボケたのをきっかけに、もう一回集まって…。姉が中心になっていたんですけど、「おばあちゃんの面倒、どうしようか?」ってことと、あとは、「お父ちゃんもあれから時間が経って、だいぶ落ち着いているだろうから、あらためて家族で出会い直しましょう」と。
 
中井 やり直せるかも! と。
 
岩井 そう。結局、その時にまた酔っ払った父がひっどいことを言って、炸裂して、前よりちょっと皆が仲悪くなって終わるんですけど。(一同笑)あの一連の流れは、ホントに自分もとんでもない感情になって、「呪ってやる」とか「殺してやる」とか言ってて(笑)。同時に、それまで認知症の人を目の当たりにしたことがなかったから、普通にコミュニケーションをとってたおばあちゃんが、表情も何も変わらないまま冷蔵庫からリモコンを出してきて僕に食べさせようとしたり、全然何もないところを叩いていたり、そういうことが衝撃だったんです。それに対して僕の兄が、ものすごく強く「違うだろ! 何でこんなものを冷蔵庫に入れるの!?」って責めていて。なぜそんなキツい言い方をするんだろうと、僕は兄のことが許せなくて。なので、父ちゃんのヒドさ、にいちゃんのヒドさというのを書いて、悪者を皆で笑いましょう〜みたいなものを書こうとしていたんです。で、二人の悪事をもうちょっと集めようと思って母に取材をしたら、まったく視点が違った…ということですね。自分が見ていたものと母親が見ていたものは、何かが違った。じゃあそれぞれの目線で見た出来事を、繰り返して見せる、つまり2周する形にしたんです。
 
中井 以前に『て』を上演していた時は、まだお父様もお元気でいらして、観に来られたりしていたんですよね?
 
岩井 『て』は見ていないんですよ。『て』よりもうちょっと前の作品を…、それにも父みたいなキャラクターが出ていたんですけど(笑)、いきなり抜き打ちで見に来て。
 
中井 チケットを頼まれたりしなかったの? 当日券とかでいらしたのかな?
 
岩井 そう、単独で。たぶん、「アイツは何をやってるんだろう」ぐらいの気持ちで来たんだろうけど……でも確かに、どうやってチケットを手に入れたかってことを想像してみたことが僕、ないですね。
 
中井 映画なら誰にも知られずにこっそりチケットを買って、こっそり見て帰れるけど、演劇はバッタリ出会っちゃうリスクがありますよね(笑)。
 
岩井 “客出し”(終演後、役者やスタッフが観客を送り出すこと)みたいな文化があることも知らないだろうし。「ありがとうございました〜」ってやってたら、なんか、誰かが前を通ったんですよ。で、遠くからこっち見てニヤニヤしてて。
 
中井 怖い(笑)。
 

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岩井 あれ! 父親だ!と思ったら、ニヤニヤしながら近づいてきて、「もう〜全然わからなかったな〜」とか言ってて。(一同笑)その時は、一番伝えたい、一番胸に刺し込んでやりたい相手にまったく伝わっていなかったってことがわかって、肩がカターン!と落ちましたけど(笑)。でもまあ、それで伝わるヤツだったら、とっくに変わってるってことですからね。だから、憤る相手にその思いを伝えるんじゃなく、それを受ける側で共有するしかないのかな、と思ったんですよ。そう、『て』は、それまでのお客さんの感想とは違っていたのが、感触として大きかったですね。
 
中井 何が違ったのですか?
 
岩井 それまでは単純に「面白い」とか、「こういう部分がハイバイって珍しいね」とか、作品のことだったんだけど。『て』を見終わった後に、知らないお客さんが急に自分の家族の話を始めたんですよ。「私の両親がすごく仲が悪くて、その時のことを思い出した」とか。最初は面食らったんですけどね。え? 何を話し始めた!? って。(一同笑)でも、あらためて考えてみたんですね。それまで作る側としては、なるべくお客さんを飽きさせないように、とか、どれくらいの間隔でお客さんに笑ってもらわないとキツい、みたいなことを考えていたけど、やっぱり一番いいのは、見ている人に、自分の生きてきた道をまた辿るような時間を持ってもらうことだと。そのほうが、すごく意味があるなと思ったんです。それが僕の中では日常から得ている体感…、自分が本当に心揺らされた体感をもとに作る、ということだなと。それで、そういう方向でやっていこうと決めましたね。
 
中井 演劇を見ているはずなのに、いつのまにか自分の親のことを考えている…っていう感覚は、すごく不思議なんです。これはだから、誰かに感情移入するんじゃないんですよね。自分の歴史に、後ろに連れ戻されるっていうか。そういう不思議な感覚が、『て』にも『夫婦』にもある。
 
岩井 今は、そんなふうに感じてもらえることが一番いいなと思っています。この芝居をもとに、自分の人生や、自分が生きている世界、自分の身の回りのこととかを思ってもらう、それでいいという。ウチの妹も、「この話を他人が見て、面白いと思う気持ちがまったくわからない」って言ってましたよ(笑)。「まんまだから」って。本当にそのまんまのことを書いているので。つまりこれは、人前でやる箱庭療法みたいなもので(笑)、そうやって自分自身が振り切ろうと思ったんですよね。

 

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再演を繰り返すことで、自分の体験が作品になっていく

 

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
【Official HP】 中井美穂 INFORMATION
【Official blog】中井美穂(アメブロ公式)

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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

【Official HP】https://seinasagiri.com/
【Official Instagram】seinasagiri_official

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尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト

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