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落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」 (平成25年9月分)<36>

2013/11/06


2013年9月27日(金)、「J亭 春風亭一之輔独演会」。演目は以下のとおり。

柳家小はぜ『子ほめ』
春風亭一之輔『あわびのし』
春風亭一之輔『短命』
~仲入り~
柳亭こみち『紙屑屋』
春風亭一之輔『らくだの子ほめ』

開口一番の小はぜは柳家はん治門下の前座。小三治の孫弟子ということになる。ここで小はぜが『子ほめ』を演ったことは、一之輔のトリネタへの「仕込み」として役立つことになるが、もちろんこの時点で我々観客にそれは判らない。

一之輔の一席目は人はいいけど頼りなくて女房の尻に敷かれている甚兵衛さんが主役の『あわびのし』。お金が無くてご飯が食べられない甚兵衛夫婦、女房が「息子に嫁が来る大家のところに祝いの品を持って行ってお礼の金をもらう」計略を立てたのに、それを亭主がマトモに遂行できない。こういう尻に敷かれる亭主のマヌケさを一之輔がやるとまた抜群に面白い。今日は特に、大家を怒らせてしまった甚兵衛が鳶頭にそそのかされて大家の家に逆襲しに行く場面の可笑しさがケタ違い。ワケのわからない台詞をハイテンションでまくし立てる甚兵衛、サゲの言い方までハジケていた。今日の一之輔は鼻風邪気味のようだが、一席目からハイテンションで飛ばしまくっている。破壊力満点の爆笑編『あわびのし』、素敵すぎ。

一之輔の二席目は『短命』。美人過ぎる若奥さんのところに来る亭主がみんな短命な理由をご隠居に訊く八五郎。「一人目はいい男で、二人目は真っ黒で顔はあって無きがごとし。で三人目も仲良くて……何でもいいんだなあの女!」って、この噺を聴くたびに思ってたことをズバリと言ってくれるのが痛快だ。(笑)

「ご飯をよそってくれるんだよお嬢さんが! ありえないでしょ!」「何でだ。普通だろ」「だってウチは自分のことは自分でやろうって」「そうか。それはその道をずっと進みなさい。何かにぶつかるだろう」「はい」「帰ってくれないかな。隠居と言っても忙しいんだよ」「先方に行ってイヤミを言わなきゃいけない」「イヤミね。弔問客が少ないですねとか、この寿司は干からびてますねとか」「乗るね。悔やみですよ」「いつも通りでいいんだ」「でも、またマクラが一緒だとか言われるとイヤだし。学校寄席の話でも」「苦労してるね」「興味ないでしょ」「わかるかい」……一之輔の『短命』はご隠居と八五郎の会話が通常の『短命』と違う方向にドンドン進んでいくのが魅力。このご隠居、口では迷惑そうに言いながら、すごく楽しそう。男子校ノリの「部室落語」の真髄だ。

「退屈すると短命? でも退屈してる爺ィ寄席にいっぱいいるよ、最前列でメモ取って」「いや手が触れるだろ」「手が触れて…毒が! 事件だ!」「仲がいいのに何で毒を盛るんだ」「倒錯した愛のカタチ?」「毒から離れろ! 何よりもそばが毒だと」「長生きするならウドンですか」「食ってろ! じゃあ今が冬だとしよう」「秋ですね」「だから思えって言ってんだよコノヤロー!!」「そんな強い口調で言わなくても」「うるせぇなテメエ! 思えよ! で、コタツに入ると足が触れる」「あのウチのコタツ大きいですから触れませんね」「チッ!」「舌打ちしましたね今」「小さなコタッと思えってんだよコノヤロー!!」……八五郎の物わかりの悪さも凄いけれども、相手をするご隠居のワイルドさが素敵だ。談志の『やかん』で乱暴な口を利くご隠居に「落語に出てくるご隠居さんらしくないね」とツッコミを入れたる一幕があるが、一之輔のご隠居さんはそれ以上に落語のご隠居らしくない。(笑)

でもホントにこの二人は仲がいい。帰り際に「また来てね」「楽しいね」と微笑み合うなんて一之輔の『短命』だけだ。家へ帰ってからも一之輔の『短命』は独特で、「早く飯食えバカ!」と亭主をバカバカ言いながらも可愛く思っているのがバレバレの女房のキャラが素敵だ。「らくだアタック!」で今月の目標『自分のことは自分でやる』! 今日はシール貼れないよ!」って、どんな家庭だ。(笑) 「ハイあなた、って言ってくれねぇか」「あら…やだ、今日のアナタ、ちょっと素敵♪」と女房その気になって差し出すと、亭主、その顔を見て「アー長命だ」 そんなこと言ってるけどこの夫婦、ホントは仲がいいのである。一之輔の落語って「仲がいいから乱暴な口を利く」パターンが凄く多い。『粗忽の釘』でも「お前さん大好き」とか言うし。(笑)

仲入り後は女流二ツ目、柳亭こみち。人気もあり、実力もある。先日、出産したばかりで、一之輔にマクラで「いま授乳中」ネタでイジられていた。今日演じたのは居候している若旦那が紙屑屋の手伝いをしに行く『紙屑屋』。軽快に演じて楽しませてくれた。

一之輔のトリネタは何と今年作った新作『らくだの子ほめ』! 前座噺の『子ほめ』の改作で、主人公はあの古典落語『らくだ』で死骸として登場する乱暴者、通称「らくだ」。このらくだが生前、前座噺『子ほめ』同様の行動を取ることで起きる大騒動を描いた、落語ファンにはたまらないドタバタ爆笑譚だ。僕は今年、これを何度も聴いているが、全然飽きない。今日は柳亭こみちに捧げる(?)スペシャルヴァージョンで、いつもは冒頭、魚屋のタケさんのところへ行って「おい! 酒飲ませろ!」と暴れて爺さんを殴り殺すところから始めるのだが、今日は「裏の漫才師のところに行って酒もらおう。おい! 宮田昇! 酒飲ませろ!」で始まる。宮田昇とは授乳中の柳亭こみちの夫、漫才「宮田陽・昇」の昇である。

「こみち、そのまま寝てな」と妻子を気遣いらくだの相手をしようとする亭主を「らくだアタック!」でノックアウト、「酒飲ませろ漫才師!」と暴れるらくだを制しようとしたお爺さんは殴り殺されてしまう。「今月五人目だ…シール貼ろう」(笑) そんならくだが兄貴分の半次のところへ行くと、丁の目の半次は「酒をタダで飲みてぇなら世辞愛嬌だ」と諭し、『子ほめ』のご隠居と同じことを言う。それを実践しようとらくだが往来に出ると町内には非常サイレンが鳴り響く。「しばらく顔を見なかったなぁ」と絡まれた番頭は怯えきって金を差し出し、町内の45歳を大家に集めさせて「お前らを気持ちよくさせてやる!」と凄むとまたしても彼らが怯えて金を差し出す。「釈然としねぇ」とらくだは「あとは赤ん坊だな…」と爺さんの弔いをしている宮田夫妻の許へ。

「赤ん坊褒めに来た」「どんだけ場違いなんだ!」「死んだ爺さんに似て」「お前が殺したんだろ!」「冗談だよ…小せぇな。育つかな」「普通だなそこは」「好きなフレーズなんだよ」などとうろ覚えのお世辞を並べ立て、「このお子さんにカヤ吊りたい首吊りたい、ホーミータイッ! 死人にかんかんのうを踊らせるぞォ!」と脅かしつける。ここでせしめたフグをらくだが持って帰って自分でさばいて食べるという『らくだの発端』、という仕掛け。三席とも爆笑編というアグレッシヴな独演会、今日も一之輔は最高だった。

※画像およびテキストの転載を禁止します。

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

【Official HP】https://seinasagiri.com/
【Official Instagram】seinasagiri_official

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尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト

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