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落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」 (平成25年12月分)<39>

2014/02/20


2013年12月20日(金)、「J亭 春風亭一之輔独演会」。
演目は以下のとおり。

柳家さん坊『金明竹』
春風亭一之輔『代脈』
古今亭志ん八『ニコチン』~『魚男』
春風亭一之輔『茶の湯』
~仲入り~
春風亭一之輔『鼠穴』


一之輔の一席目『代脈』は名医の弟子が先生の代診でお屋敷の美しいお嬢さんを診察に行って失敗する滑稽噺。
「ヘタにお腹のシコリを触るとオナラが出てお嬢さんがかわいそうだから、くれぐれも気を付けるように」と言われていたのに、この銀南という弟子はそのシコリを思いっきり押してしまい、「もしものときは耳が遠いことにしなさい」と言われたとおりに誤魔化そうとして「耳が遠くて今のオナラも聞こえませんでした」というオチ。言ってみれば軽い小咄のようなモノで、並の噺家が演ればそれほど面白くないが、銀南のキャラをどう描くかでどんどん面白くなる。初めて桃月庵白酒で『代脈』を聴いた時はあまりの可笑しさにひっくり返ったものだ。で、一之輔の『代脈』も実に面白い。銀南の「食い意地が張ったスケベな奴」というキャラは、白酒と同じく一之輔も得意とするところ。あえて違いを挙げれば、白酒は「食い意地」に、一之輔は「スケベ」に比重が掛かっているところだろうか。

続いて登場した落語協会の二つ目、古今亭志ん八はトボケた新作落語に味がある演者で、この日は寄席などでよく演る小品『ニコチン』(禁煙している男の家にニコチンが訪ねてきて誘惑するというシュールな噺)を演った後、釣り好きの男が主人公の『魚男』へ。結婚して25年、いっぺんも旅行に連れてってくれない夫に文句を言う妻と、それに応える釣り好きの男、というシンプルな構成で、こちらも軽い小品。どちらもバカバカしくて素敵だ。

一之輔の二席目は得意ネタ『茶の湯』。茶道の心得がまるでないご隠居が定吉と二人でデタラメな茶の湯に凝って「男の茶の湯だ!」と悦に入り、周囲の人々を恐怖のドン底に陥れる噺である。
青きな粉をシャカシャカ・バーでかき混ぜ椋の皮で泡立てた「男の茶の湯」は泡が宙を舞う。それを見て「夢の国にいるみたいですね」と言う定吉、「かわいいなオマエ」と応じるご隠居。この純真な二人が「この風流を広めよう」という危険思想にハマり、通りすがりの他人を拉致しては「自己を解き放つのですよ!」と洗脳しまくって、いつしか彼らはオデコに「茶」と記した三角頭巾を被った秘密結社「茶・茶・茶」へと……という一之輔版『茶の湯』の暴走は何度聴いても最高に可笑しい。「泡を制する者は茶の湯を制する」というご隠居の名言、「それもまた、茶の湯」というフレーズが忘れられない傑作だ。

休憩後のトリネタ『鼠穴』立川談志十八番として知られる大ネタで、これをしっかり演じるには相当の実力が必要だが、一之輔はこれを完全に自分のものにしている。
冒頭、国から江戸へ出てきた竹次郎に「村から来る奴は皆、金の話だ」と呟く兄、父の遺産を兄が全部受け取るのCではなく二つに割って兄弟で半分ずつ相続したことを面白くないと兄は思っているだろうという竹次郎の発言があることで、その後の展開をわかりやすくしているのは、一之輔の工夫だ。

兄が商売の元手と貸してくれたのはたったの三文。三日三晩何も食べていなかった竹次郎は米屋でサンダラボッチをもらい、これでサシを作って売り、次は三文でサンダラボッチを買い、二十四文たまったところで俵を買って草鞋をこしらえ、この草鞋の履き心地がいいと評判になり……そんな竹次郎は働き者だと評判になってあちこちの商いを手伝うようになり、信用が付いて女房をもらい、内助の功が竹次郎の支えとなって、生まれた娘のためにと一層働き、裏通りに構えた店から表通りに出て、十年経つか経たないうちに蔵を三つ持つ大店の主に。そして兄に三文叩き返しに行くという、ここまでの運びも軽やかでいい。

弟のことを思ってあえて三文しか貸さなかった真情を打ち明ける兄の「ワレのほうが父っつぁまから可愛がられた…ワレのほうが父っつぁまに似てる、強情だ。十年で大店の主に…何よりの親孝行だ」という台詞、真相を聞いて「十年経ってもオラァ小せぇまんまだ」という竹次郎の台詞が印象的。その夜、蔵の鼠穴が気になるという竹次郎が兄に説得されて泊まっていくことになり、いったん眠った後、ジャンジャン!と半鐘が鳴って「火事!」と起きるが、兄は「何も鳴っとらんよ」と応じる。「怖かった……」「夢でも見たか」ということで安心してもう一度眠るが、再びジャンジャン!と半鐘、今度は本当だ…という展開。これは一之輔オリジナルだ。

店も蔵もすべて失った竹次郎、気丈に商いを始めたものの「暮れに火を出すような店は縁起が悪い」と言われて何をやってもうまくいかない。奉公人はすべて去り、女房が病の床に臥せって薬代が必要になると、竹次郎は一人娘のはなを連れて兄の許へ。「春の商いの元を貸せ? わかった、五両もあればいいか」との返事。「いや百両」「百両? いつまでに返せる?」「来年の秋には」「それは無理だ、五両もってけ!」「せめて五十両」「竹、オラは跡継ぎおらんから、この店の金は奉公人みんなの金でもある。五両ならオラの懐金ってことで、返さんでもええ」「カカ様、病気でニンジンって薬買うには金が…」「オラが頭下げてもらってくれって頼んだカカ様ではねぇよ」と、兄は冷たく応じる。このあたりの緊迫したドラマは真に迫っている。

「商人がカカ様もらうなんて贅沢だ。それに人間、寿命ってもんがある。薬飲んでも治らねぇものは治らねぇ五両もってけ」「兄弟じゃねぇですか」「兄弟の前に商人だ、竹、それがワレの甘いところだ、だから火事なんか出すんだよ!」 これを聞いてカッとした竹次郎があの晩の「身代くれてやる」という兄の約束を持ち出すと「言わねぇよ、言ったとしても酒飲んどった。そこが甘ぇんだ、何言っとるだ」……

「村の人はうそつかねぇな、兄さんは人の面かぶった畜生だ!」と兄を罵り、何だと!と殴られた竹次郎は塩をまかれて放り出される。はなは「おとっつぁん、痛かった…?」と声を掛け、自分が五十両を吉原でこしらえると提案する。この場面では、竹次郎が「はなは、カカ様に似たんだな…」と呟くのが印象的だ。

五十両を盗られて死を決意して場面は一転、竹次郎の前に兄の顔があって「あっ、鬼!」と反射的に殴るという演出、これもいい。緊張を一気に緩和してくれる。「寝ぼけ癖なおっとらんなぁ」と兄はボヤき、竹次郎の話を聞き終えると、「竹、ワレ疲れとるよ、夢は五臓の疲れっていうからな、少しはゆっくり休まねぇと身体を壊す」といたわりの言葉をかける。これは良い工夫だ。サゲの言葉をさりげなく説明しておくことは現代の観客には必要だろう。感情を揺さぶられた『鼠穴』、絶品だ。今、僕が最も納得できる『鼠穴』を演っているのは一之輔だと断言しよう。

※画像およびテキストの転載を禁止します。

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

【Official HP】https://seinasagiri.com/
【Official Instagram】seinasagiri_official

2019/06/07

尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト

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