落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成21年11月分)<6>

2010/01/27


お待たせしました。11月に開催された「四季 秋Part III」をお届けします。
今回は、立川左談次師匠をお迎えしの開催となりました。

立川談笑『火焔太鼓』

直江兼続の「恋」の兜や前方後円墳の鍵といった怪しい品物ばかり仕入れては損をしている道具屋。父もお雛様の首が抜けるのなどを商う道具屋だったという。この道具屋が今日も何か仕入れて風呂敷にくるんで背負ってきた。「あっ、何この汚い太鼓! またこんなもの買ってきて!」と怒る女房、「ペッ!」と太鼓に唾を吐きかけ。「なんでこんな汚い太鼓に一分も出して買うの! ほら、ここなんか唾みたいなのが付いてる!」「それオマエの唾だよ」

そんな汚い太鼓だが、小僧が叩いてる音を聴いて気に入った殿様が買ってくれるという。お屋敷に呼ばれた亭主、女房に「こんな汚い太鼓を持ってきおって!って怒られて、松の根元にくくりつけられて頭の皮はがされて殺されるよ! 松の根元に『助けて』って足で書いて朽ち果てるんだよ」と脅される。「太鼓だけに…うち死によ(泣)」「なんだその人情噺は」と言いながら二人は涙に暮れる。「逃げようか」「私たちの足じゃ逃げ切れない」と諦めて太鼓を背負い、出かけようとする亭主。「オレ、どこへ行くんだっけ?」「今日はそういうキャラじゃないの」

赤井御門守様の屋敷へ着くと門番が「高木作左衛門様のところへ?」「それは違います」「では近藤様が松の肥やしにされると?」「それも違います」 案内される途中に松があるのを見て「あれが噂の松を曳いたり戻したり…ああっ! 松の根元に誰か死んでる! 」「あれは初音の鼓を持って来た道具屋だ」

太鼓を出すと「この汚い太鼓か?」と取次ぎの重臣が驚く。「何故オマエのところの小僧は猫の屍骸を叩いてるのかと思っていたが…」 太鼓を持って重臣が去る。「ここで逃げたら新しい展開だ」と逃げようとした道具屋だが、扉は閉まって出られない。万事休す。しかし、殿様に見せるとたいそう気に入ったとのこと。「嘘だ!」と怯えきっている道具屋を、重臣がなだめる。「あれは火焔太鼓という名器だとか。いくらで手放す?」「そうやって油断させて捕まえて松の根元に縛るんでしょ! それで口の中に虫が…」「何を妄想しておる。手いっぱい値を言ってみよ」「百億万両!」「値段になっておらんな。三百両でどうだ?」「嘘だ! 贋金で騙すつもりだ!」「おまえ、縛られたいのか?」

なかなか信用しなかった道具屋だが、三百両を受け取ってようやく現実だと納得、上機嫌で帰る。「あっ! オマエさん生きて帰ってきたってことは大変だ、アナタ縛られそうになって反対に刀を奪ってみんな斬り殺してここへ舞い戻ってきたんだね、逃げなきゃ!」「バカ、あの太鼓が売れたんだよ」と三百両を目の前に出す。「これなら文七さんが六人来ても大丈夫ね。やっぱり商売上手ね、今度は半鐘買ったら?」「だめだよ、オジャンになる」「死語なのよソレ。サゲの当てはあるの?」「太鼓だけにドンドン儲かる」「今日のお客さんそれじゃ許してくれない」

「…なんて、あの頃は大変だったなあ」「あの三百両でここまで来たわね」「そうだな、筆取ってくれ、表書き書いておこう。『はてなの茶碗』と」

名人志ん生の十八番として知られる噺を、談笑オリジナルのギャグ満載で作り変えた爆笑編。パロディ的なサゲも、もちろん談笑の創作。

立川談笑『火焔太鼓』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part III」より)

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立川左談次『五人廻し』

売れっ子の喜瀬川花魁目当てに吉原にやってきたものの、肝心の女は来ず、「廻し 部屋」でひたすら待たされている男達と、彼らをなだめて廻る若い衆。吉原通を気取る職人は怒りを爆発させて「金を返せ!」と若い衆を怒鳴りつける。慌てて退散した若い衆、次の部屋に行くと今度は「給仕! 雑役夫! 前へ進め!」と威張り散らす官憲風の男で、「このままではフツフツと湧き上がる性の欲望を抑えきれぬ、自爆テロを起こすぞ! ここへ来たは肉を喰らうため、金を返せ!」と、やはり怒鳴りつける。

そこを退散した若い衆を「こけーこったらこけーこ!」と呼ぶのは「アマッコがなくなったでがすよ」という田舎者。もっとも自分では「おら、イドッコだよ」と言っている。そこから逃げ出した若い衆、今度は「そこを通行するは当家の若い衆さんでゲショ?」とゲショゲショ言うキザ男。円菊師匠のような動きをしながら、「尊君のカラダをお貸し」と危ない雲行きに。「怖いことは無い、背中を向けて…そこへこの真っ赤に焼けた火箸をジュウと…」

「やれやれ、今度は五人目だから大丈夫だろう」と若い衆は「お大尽」気取りの田舎者、杢兵衛の居る部屋へ。そこに喜瀬川もいた。「アンだって? 喜瀬川こねーから客、怒ってるてか? 玉代返せ? 田舎モンだなそりゃ。一人に一円で、四円やるから、そいつらにやって帰せ」すると喜瀬川「お大尽、あたしにも一円」「ええよ」「じゃあこの一円お大尽にあげるから、帰ってちょうだい」

立川左談次は一九五〇年生まれ、一九六八年に立川談志に入門して、一九八二年に真打昇進。談志が落語協会を脱退して立川流を創設する以前からの「寄席育ち」の弟子。飄々としたキャラとキレのいい江戸前の口調、頭の良さを感じさせる痛快なギャグ・センスが魅力の、「これぞ落語家!」という素敵な存在だ。

立川左談次『五人廻し』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part 3」より)

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立川談笑『黄金餅』

貧民窟の長屋。「西念さん、風邪こじらせたんだって?」と乞食坊主の西念を見舞う隣の金兵衛、実は西念の貯め込んだ金を狙っている。「西念さんは俺の本当のオヤジみたいな気がしてるんだ。壁の穴から見てるけど、何日も何も寝込んでるね。何も食ってないし。…随分貯め込んだんだろ? どこだ? この布団の下かな?」「やめて、やめてよ!」 布団の下を探られまいと必死に守る西念。

アンコロ餅が食いたいと言う西念に大量の餅を届ける金兵衛。「帰って!」と追い出して西念は一人で食おうとする。「偏屈になりやがって…」と金兵衛は、自分の部屋の穴から隣の様子を覗き見る。「あ、むこう向いて何かやってやがら…アンコと餅を別々にして…普通に食え!」 チャリッ!「金だっ! 飲んでやがった、このヤロー!」 慌てて隣家に飛び込む金兵衛、西念の脚を持って逆さ吊りにして激しく揺さぶる。「吐け! 吐け!」 口からノドに手を突っ込んだりしてるうちにグッタリする西念。「あれ? 西念さん? …死んじゃった、どうして!?」

「さあ、金を出さなきゃいけない、どうする? このまま身体を切り裂いて金を出してから西念さんが死んだって大家に言いに行っても俺が犯人みたいだし…そうだ! 焼き場で焼いて、金だけ取ろう!」 金兵衛、まずは大家のところへ行って「西念さん死んじゃった。『金さん、あとは頼む』ってのが遺言だから、俺の寺へ行って弔い出すよ。いつかのらくださんのときみたいに銭出し合って」

長屋の連中も皆、西念が貯め込んだ金を狙って来る。「おい、テメェら、弔いなんだから木戸銭払えよ!」 簡単な通夜のあと、長屋の一行は菜漬けの樽に西念さんの屍骸を入れて麻布絶口釜無村の木蓮寺へ。「ウワッ! これが寺?」と驚くような貧乏寺。門を叩いて「おーい!」と呼ぶとヘベレケの和尚「何だ! 酒屋の小僧か! 銭ならネェぞ!」 犬が出入りする穴から入れと言われ、「こんな穴、樽なんか通らねぇぞ」「立川談志の本にも書いてなかったな」「しょうがない、中身だけ持って行こう」と屍骸の足首を持ってズルズルと引きずって入っていく。

何にも無い寺で値切って弔いを出す。「父と子と聖霊の御名において地獄に落ちろ、カーツ!」でお経が終わる。「香典全部、金さん持ってるだろ? それで何か食わせてよ」と言う長屋の連中に「西念さんが『床板をはがした跡を掘らないでくれ』って言ってたのが気になる…」と金兵衛は呟く。「あっ! そうか、俺帰る!」「俺も!」 こうして金兵衛一人が残り、庫裏にあったアジ切り庖丁を懐に、西念を担いで焼き場へ。

「オメェさんと二人っきりになっちゃった」 金兵衛は夜道を歩きながら西念の死体に話しかける。「セガレみたいってのは嘘じゃネェよ、一緒に二人であの地獄から抜け出して、団子屋でもやりたかった。本当の親子みたいに、『ほら、おとっつぁん、団子焼けたよ』なんて言って…そういう真っ当な暮らしがしたかった……聞いてるかい、西念さん?」「あい」「……西念さん?」「あい」「えっ!」「金さん…殺さないで…」 西念が口をきいたので慌てて金兵衛、首を絞めて殺す。「あービックリした」 すぐに気を取り直して焼き場へ直行。「開けろ開けろ!」

隠 坊に「お腹の辺りは生焼けで、強火の直火で」とリクエストし、焼きあがった屍骸の腹の中に手を突っ込む「アチチッ!」と言いつつ、金をどんどん拾い上げて袂に入れ…「これでよし!」「うわっ! 何だアンタ、死体グチャグチャにして!」「あとのガラは全部オメェにやるよ!」 この金を元手に餅屋を開いてたいそう繁盛したというおめでたい一席…とサゲた。

貧乏の悲惨さを描く江戸落語を、談笑は一層リアルに「人間の怖さ」を浮き彫りにした。西念が生き返ったのを殺しておいて「あービックリした」の一言で済ませる感覚が凄い。談笑の大ネタ十八番の一つ。

立川談笑『黄金餅』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part III」より)

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

【Official HP】https://seinasagiri.com/
【Official Instagram】seinasagiri_official

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尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト

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