落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成27年12月分)<65>

2015/12/24


J亭_0050

12月10日(木)、「J亭落語会 春風亭一之輔独演会」。
演目は以下のとおり。

林家たま平『初天神』
春風亭一之輔『道灌』
春風亭一之輔『加賀の千代』
~仲入り~
柳家ろべえ『噺家の夢』
春風亭一之輔『三軒長屋』

開口一番の前座、林家たま平は当代正蔵の長男。高座での堂々とした振る舞いはさすが芸能一家。

一之輔はごくオーソドックスに『道灌』をやった後、「暮れの噺です」と言って得意の『加賀の千代』へ。一之輔の『加賀の千代』はご隠居の徹底的な「甚兵衛さんLOVE」な振る舞いが最高に可笑しい。しかもその愛は最近どんどんエスカレートして「抱きしめたくなるね。膝に乗るかい?」なんて言うほど。「二十円貸してください」「いいよ」「えーっ!やめてくれー!ダメだよそこは、驚いてくれないと!」というやり取りの後の「じゃあもう一度、最初からやってごらん」「俺は世帯主だ-!」「いや、もっと先に進んで」でテープ早送り口調になる甚兵衛さんの可愛さは、確かに抱きしめたくなるのもわかる。(笑) 落語やってて自分で楽しくなっちゃってる一之輔、というのがありありとわかって、いつ聴いても楽しい一席。

ゲストの柳家ろべえは柳家喜多八門下の二ツ目。マクラで披露した喜多八の物真似は絶品! さらに大師匠である小三治とのエピソードも興味深く聴けた。長いマクラの後で入っていった『噺家の夢』は四代目三遊亭圓遊がやっていたネタ、というが、僕にとっては完全に「喜多八の演目」だ。それを弟子が覚えました、という段階。

一之輔のトリネタは『三軒長屋』。
鳶の連中が大騒ぎを繰り広げる前半には「これぞ江戸落語!」という楽しさが詰まっていて、ここだけを「上」としてやる場合もあるけど、当然、一之輔は「下」まで通し。一之輔の『三軒長屋』は、まず「上」できっちりと絵が見えるのが素晴らしい。人々がどういう空間で動いているのかがよくわかる。だからこそ、ドタバタ騒ぎを純粋に楽しめる。だが、さらに素晴らしいのが「下」。サゲに向かって段取りを重ねていくだけになってしまってはダレてしまうのが「下」だが、上手い演者だと全くテンションを落とさずに楽しく聴かせてくれる。その最たる演者が古今亭志ん朝であり、立川談志だった。一之輔はまさしく、そうした名人と同様に、「上」から「下」へ入ってもテンションが落ちないし、実に面白い。『三軒長屋』を通しでやって「長い」とは全く感じさせない一之輔の技量に舌を巻いた一席だった。
鳶の連中と姐さんとの会話、下っ端が隣の妾と下女を見て大騒ぎする様子、剣術道場での風景、両脇の大騒ぎに閉口する伊勢勘、帰ってきた鳶頭と剣術の先生との会話、先生と鳶頭が順番に伊勢勘の許に引っ越しの挨拶に来る場面……この長い道のりの中に、それほど大きなドラマがあるわけでもなく、大して面白いギャグがあるわけでもない。ただ「三軒長屋の日常で起こった、ちょっとした出来事」を描きながら、小咄のようなオチで収束する『三軒長屋』。この噺の面白さは、一人ひとりがいかに生き生きと動くかに掛かっている。言ってみれば、「人間って、可愛くて、面白いなあ」という噺だ。一之輔落語の本質は、そこにある。滑稽噺だと、表面的なギャグの面白さが突出しているから、そこに目を向けがちだけど、じゃあ何故そういうギャグが面白いかというと、それは一之輔が言ってるのではなく登場人物の腹から出ている言葉だからだ。『加賀の千代』の面白さも、ギャグの面白さではなく、甚兵衛さんとご隠居の面白さなのだ。それを改めて感じた12月のJ亭だった。

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

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