落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成28年1月分)<66>

2016/03/16


J亭白酒_0282
1月14日(木)、「J亭落語会 桃月庵白酒独演会」。
演目は以下のとおり。

桃月庵ひしもち『道灌』
桃月庵白酒『ざるや』
桃月庵白酒『替り目』
~仲入り~
古今亭始『四段目』
桃月庵白酒『御慶』

開口一番ひしもちは白酒の二番弟子。高座返しをするときのヒョロッとした印象とは裏原に、意外と骨太な落語をやる。

登場した白酒は寄席の初席の話題に絡めた「縁起を担ぐ」ことについてのマクラを振って、『ざるや』へ。株をやっているので縁起を担いで「上がる」という言葉が何より好きな大店の旦那、「上」づくしで応対してどんどんご祝儀をもらう調子のいいざる売りの男。先代馬生がよく寄席でやっていた噺で、いつも途中の「金庫ごと持ってこい!」で切って、上がりっぱなしのめでたい噺として演じていたが、今日の白酒は完演。うっかり「頭が下がります」と言って旦那の機嫌を損ねたざる屋が「叩いたって潰れるようなざる屋じゃございません」でサゲた。このサゲは、ざるを売る時に叩いて見せて「このとおり、叩いて潰れるようなざるじゃございません」と言う、というのにかけたもので、上方落語の『米揚げ笊』のサゲとほぼ同じ。東京の『ざるや』では(白酒にしても)ここまでやるより「金庫ごと持ってこい」で切ってしまうのが普通だ。あるいは「ざる屋さんも縁起を担ぐね」「いえ、私が担いでいるのは旦那で」とサゲるやり方もある。
この噺、主人公がとにかくメチャメチャ変な男だ。落語の登場人物の中でも特殊な人物と言える。『ざるや』は縁起を担ぐ噺というより、主人公がざる屋の吉兵衛を訪ねてざる売りになるまでのパートの可笑しさがすべてで、馬生のやり方も、むしろ「上がる」というのが好きな旦那が出てくるのはオマケに近いバランス感だった。白酒は馬生の『ざるや』のバカバカしさをきっちり継承しつつ、自分の味も加えていて実に面白い。ちなみに白酒にとって『ざるや』は「客に合わせて『間』を変える」ことの大事さを会得した噺だというが、わかる気がする。

二席目は今や白酒の十八番とも言うべき『替り目』。
酔っ払いが「♪さ~ら~ばラバウルよ~またくるま~で~は~」と歌う言葉尻を「また車で」と捉えて「へい、お待ち!」と登場する車屋、「乗ってやるから『アンヨはじょうず』やって」とねだる面倒くさい酔っ払い、という冒頭からしてバカバカしくて素敵だ。白酒は大多数の噺家が陥る「志ん生の呪縛」から完全に解放されている。「飲めるよ」「飲めない!」「オメェはオレか?」に始まり「おまえは北風と太陽って話を知らないの?」を経て「どうして何も訊かずに行こうとするの?」「どうせ大根と玉子とコンニャクだろ!」に至るまで、この夫婦の掛け合いの可笑しさは尋常じゃない。何よりこの二人、ホントに可愛い。実は志ん生の『替り目』のキモはそこにあるわけで、フレーズをコピーしても仕方ないのである。
白酒は『替り目』を「元帳見られた」で切ることをせず、必ずサゲまでやる。「決まり悪いなぁ…いいや、酒に逃げちゃえ」という流れの見事さ。うどん屋に対しての酔っ払い亭主の面倒くさい台詞がいちいち素敵だ。「おまえ、『ありがとうございます』は口から出まかせで言えるのに、どうして『やってみます!』って言えねぇんだよ!」「旦那、論理的な酔っ払いは嫌われますよ」みたいな会話が似合うのは白酒だけだろう。落語家に必要な創造力とはこういうことなのだ。

仲入り後に登場した古今亭始は志ん輔門下の二ツ目。定吉による四段目一人芝居が丁寧でリアル。それ以外はわりと白酒に近いんだけど。(「もっと定吉に自由を!」とか「餓死せしむる」とか) 番頭がカマかけて「獅子の前足を松本幸四郎と中村吉右衛門がやってた。兄弟で仲悪いって言われてるけど」ってくだりは誰が考えたんだろう。

白酒のトリネタは『御慶』。
正月の噺というのは意外に少なくて、大きな噺となると『御慶』くらいだろう。「大きな」というか、暮れに千両富に当たるまでと、年始回りをする後半との二段階がある長い噺だ。四代目小さんから五代目小さんに継承された噺だが、志ん朝もやっていた。小さんも志ん朝も、年始回りに行く際の「ギョケーッ!!」という頭のてっぺんから出るような声が実に可笑しかったが、白酒も同じ。千両富に当たってからの八五郎のテンションの高さは白酒ならではのバカバカしい可笑しさに満ちあふれている。現役の演者で『御慶』というと真っ先に白酒が思い浮かぶ。今日の三席はすべて「これぞ白酒!」という演目だった。

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

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