落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成28年2月分)<67>

2016/03/30


J亭_0191
2月18日(木)、「J亭落語会 柳家三三独演会」。
演目は以下のとおり。

柳家三三『壷算』
柳家三三『二十四孝』
~仲入り~
柳亭小痴楽『風呂敷』
柳家三三『花見小僧』

前座はなく、いきなり三三登場。買い物がヘタな甚兵衛さんが、ズル賢い留さんに手伝ってもらって水瓶を買う『壷算』は、要するに「さっき渡した三円とこの水瓶を足して六円」というトリックにまんまと引っ掛かってしまう道具屋の主人、という噺。これを面白く見せるためには、まず考えられるのが「混乱する主人」のアタフタぶりをデフォルメする、というやりかたで、現在その方向で名人と言えるのが桃月庵白酒。だが三三の場合、主人は混乱と言うより「困惑」していて、それが物凄く可笑しい。この店主は結構鋭くて、「分けて考えちゃいけない!」と気付くのだが、帰ってきた子どもが別の「数のトリック」(算数)を提示することで考えがまとまらず、留さんがそのトリックを見事に解き明かすことで、主人の困惑は恐怖に変わって「帰ってください」となる。このアプローチは三三ならでは、アッパレである。甚兵衛さんの可愛さと留さんの得体の知れなさが相まって、三三ならではの噺に仕上がっている。

そのまま高座を降りることなく二席目の『二十四孝』へ。乱暴者の八五郎があまりに親不孝なので、大家が唐土の親孝行の逸話を聞かせて改心させようとする噺で、聞きかじった逸話を再現しようとする八五郎のトンチンカンな解釈が可笑しいわけだが、そもそも大家が話して聞かせる王祥、孟宗、郭巨といった人達の逸話は誰だってピンと来ないわけで、むしろ八五郎に感情移入してしまうのが自然だ。そういう観客の心理を遙かに凌駕する「八五郎の乱暴さ」に出会った時、この噺は滅法面白くなる。立川志らくのように完全にイリュージョンにしてしまうのも手で、その場合は唐夫人の気味悪いエピソード(母に乳を飲ませる)が逆に生きてくる。通常は王祥(鯉が食べたい)、孟宗(筍が食べたい)、郭巨(親のために子を埋める)、呉猛(蚊帳の代わりに自分が蚊に刺される)の四つを大家が説いて、呉猛のエピソードでサゲに向かうのだが、今日の三三は呉猛をカットし、八五郎が三つの逸話をゴッチャにして混乱して「冗談言っちゃいけない」でサゲた。そこが一番面白いのだから、このやり方は賢い。「ワッと受けたところで終わるのがベスト」という五代目小さんの了見を受け継いでいる、と言えるだろう。

仲入り休憩後はゲストの柳亭小痴楽が登場。落語芸術協会の二ツ目ユニット「成金」が話題だが、小痴楽もその一員。二〇一二年にNHK新人演芸大賞を受賞した桂宮治も「成金」に名を連ねているが、宮治がそうであるように、小痴楽もユニットとは関係なく、芸協の将来を背負って立つべき人材だ。とにかく江戸前の口調がカッコいい! チャラい感じの風貌と実際のキャラは完全に一致していて、芸人らしい芸人だ。「上手い噺家」というより「達者な噺家」として大成してほしい。
仲入り後に登場した古今亭始は志ん輔門下の二ツ目。定吉による四段目一人芝居が丁寧でリアル。それ以外はわりと白酒に近いんだけど。(「もっと定吉に自由を!」とか「餓死せしむる」とか) 番頭がカマかけて「獅子の前足を松本幸四郎と中村吉右衛門がやってた。兄弟で仲悪いって言われてるけど」ってくだりは誰が考えたんだろう。

三三のトリネタは『花見小僧』。『おせつ徳三郎』の前半を独立させたもので、後半『刀屋』が完全に人情噺なのに対して『花見小僧』は滑稽噺…とは言いつつ、小僧がご主人に訊かれて「花見の時におせつと徳三郎がイチャついてたことを話す」だけの噺だから、ヘタな演者がやったら全然面白くない。林家たい平が昔よく寄席でやってて、明るいキャラと似合ってて面白かったのを思い出すくらいだ。だが三三の『花見小僧』は面白い! こういう「起伏のない噺」をやらせたら三三の右に出る者はいないのではないだろうか。ちょっとした日常のヒトコマを、こちらは何となく覗き見ている感じ。好奇心で聴き入ってしまうのである。この噺では、旦那が小僧が「忘れた」とトボケようとすると「それは若耄碌だ、灸を据えて治さなければいかん」と脅す、というのが繰り返させるのだが、三三はそれを利用して「…この先は忘れてしまいました。次回までに灸を据えてこようと思います」と言ってサゲた。上手い!!

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

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尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

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