落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成28年3月分)<68>

2016/04/02


J亭一之輔_0052
3月14日(月)、「J亭落語会 春風亭一之輔独演会」。
演目は以下のとおり。

春風亭一猿『子ほめ』
春風亭一之輔『館林』
春風亭一之輔『人形買い』
~仲入り~
春風亭一蔵『転宅』
春風亭一之輔『居残り佐平次』

開口一番の一猿は、春風亭一朝一門の一番新しい弟子。一昨年入門して昨年秋に前座となったばかり。

一之輔の一席目『館林』は、少し前までは「あまり演り手がいない噺」だったけれども、今では三遊亭兼好が演っているのと、一之輔が演るようになったのとで、落語ファンの間には少しずつ浸透してきている。町道場に通う八五郎が、先生の武者修行のエピソードを聞き、真似をしたくてウズウズしているところに、ちょうど「酔っぱらった若侍が騒いでいる」という事件に遭遇し、真似をして失敗する噺。こういう「オウム返し」は一之輔の得意とするところで、お調子者の八五郎の描き方が抜群に可笑しい。とんでもないオチが待っていて、凡庸な演者だと後味が悪い漢字にもなりかねないが、一之輔はあくまでバカバカしさを強調しているので、荒唐無稽な「落語らしい噺」として屈託なく楽しませてくれる。

二席目の『人形買い』は、子供の初節句で長屋にちまきを配った神道者に祝いの人形を買う二人組の噺。長屋から集めた五円を持って人形店に行き、四円に値切って残りの一円で一杯やろうという算段の二人組が、神宮皇后の人形と太閤秀吉の人形とどちらにするべきか悩み、人形屋の小僧を伴って長屋に戻る…というところまで。この後、二人組が長屋のうるさ型の易者と講釈師に翻弄されることになるのだが、そこまで演ってもそれほど面白くない、ということで、寄席などでは前半だけ演る場合が多い。ところが前半だけだとストーリーとしては平坦なので、これまた凡庸な演者だと「だから何なんだ?」ってことになりかねないが、一之輔は二人組のやり取りの面白さ、ついて来た小僧のキャラなどで楽しく聴かせてくれた。

仲入り後は一之輔の弟弟子の一蔵が『転宅』を。二ツ目になって三年半、だいぶ上手くなった。このまま伸びていってほしい。

一之輔のトリネタは『居残り佐平次』
あっけらかんとした佐平次のキャラが一之輔らしくていい。「品川に行こう」「着いたよ、早いだろ」という冒頭の会話など、基本形は志ん朝の流れだろうが、台詞回しがことごとく「一之輔ならでは」に出来上がっていて、新鮮に聴ける。この佐平次という男の「得体の知れなさ」の向こう側にある「闇」のようなものをチラッと感じさせる圓生、談志のような演り方もいいけれど、あくまで陽気な噺として押し通す志ん朝の『居残り』の楽しさを現代風にアレンジして提示した一之輔の演り方は、現代の観客がこの噺の世界に無理なく入っていけるという意味で、優れている。サゲは「おこわにかける」のままだけど、「おこわにかける」の意味を特に説明もしない、というのも、僕は潔いと思う。というより、「おこわにかける」を無理なく説明するのは至難の業だ。だから談志や圓楽(先代)のようにサゲを変えるほうが本当はいいんだろうけれども、この「おこわにかける」「ごま塩だから」の古臭さ(圓生にして「あたしもわからない」と言ったほどだ)は、今や一周して「なんだかわかんないけど落語らしくていいなあ」的な味わいを持っている気がするし、一之輔はそこが好きなんじゃないだろうか。というより、そういうこと(説明しないと初心者にはわかりにくいとか)を深く考えないのが一之輔のいいところだと僕は思っている。

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

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