落語「J亭」

広瀬和生の「J亭を聴いた」(平成28年4月分)<70>

2016/04/18


J亭_00314月14日(木)、「J亭落語会 春風亭一之輔独演会」。
演目は以下のとおり。

春風亭きいち『転失気』
春風亭一之輔『鈴ヶ森』
春風亭一之輔『天狗裁き』
~仲入り~
雷門音助『黄金の大黒』
春風亭一之輔『茶の湯』

一之輔の一番弟子きいちの『転失気』は一之輔のまんま覚えていて面白い。表情や口調のメリハリもいい。だいぶ上達してきた。

一之輔の一席目は『鈴ヶ森』
誰よりも面白く『鈴ヶ森』をこしらえたのが柳家喜多八で、その喜多八から習った『鈴ヶ森』で遊びまくっているのが一之輔。新米泥棒のやる気のなさ、適当さがどんどん際立ってきた。喜多八の『鈴ヶ森』から離れた一之輔の『鈴ヶ森』のキーワードは“愛”。兄貴分に「手を繋いで」と懇願する新米、「指を互い違いに絡めるな!」と言いながら握らせてやる兄貴。「フンドシ締めてない」理由が「春だし」って何なんでしょう。(笑) 何度聴いても飽きない、っていうより毎回違うから一之輔は凄い。

二席目は『天狗裁き』
最初に夢のことを聞きたがる女房との夫婦喧嘩が一之輔ならでは。「夢なんか見てねぇよ」「見てねぇってのは見たってことでしょ! どうせつまらない夢見ててさ」「つまらねぇんなら聞かなくていいじゃねぇか!」「夢の話も分かち合えないなんて小さな男! あーあ、一緒になるんじゃなかった、ロクさんにしとけばよかった」……この調子で延々と続く。こういうところの面白さに一之輔落語の素敵さがある。それを仲裁する熊さんの「おめぇ達は仲良すぎるんだよ」って台詞も言い得て妙。
その熊さんは夢を聞きたがって「五年前の恩を忘れたのか、偉くなったもんだな」と来るから八公も「じゃあ四年前の恩は」が返すと「じゃあ三年前の…」となんだか『笠碁』みたいに。そこに仲裁に来た大家は熊を「バーカ」と一喝。「店賃を六つも溜めやがって」「関係ねぇだろ」「関係大アリクイです~。そんなことしてねぇで働けバカ! 振り向くなバカ! 歩めバカ!」と一之輔落語お約束の「バカ」攻撃。こんなに「バカ」って台詞が楽しい落語家は一之輔しかいない。
この大家が八公と繰り広げるのが“愛”あふれる一之輔落語の世界。「お前、好きだよ、よく言わなかったな。この歳になるともう何を聞いても棺桶に持って行くだけ、話す相手もいない。面白い話なんてもう三十年も聞いてないよ…なぁ…聞かせてくれよ」「触るなよ!」「なぁ」「なつくなよ!」 甘えてくる大家に八五郎が「帰ってくれよ大家さん!」と強く言うと「俺はここを離れないぞー!」と頭を床に付けて寝てしまう。お裁きになると今度は大岡越前が「八五郎~! 聞かせてくれ! 奉行にっ! 面白い話、聞かせて聞かせてー!」と駄々っ子のようにジタバタするし、吊された八五郎は大天狗によって高尾に連れて行かれると面倒くさくなって適当な夢の話を作った挙げ句、「うるせーなバカ! なんだよみっともねぇ顔しやがって! バーカ! バーカ!」と喧嘩腰。『天狗裁き』みたいな噺でもこんなに遊んじゃうんだな~と驚いた。いやー面白い!

仲入り後に登場したのは二月に二つ目に昇進したばかりの雷門音助。『黄金の大黒』をきれいな語り口きっちりと。二つ目になったばかりでこの上手さ。将来が楽しみだ。

一之輔のトリネタはおなじみご隠居と定吉が危険思想の犯罪集団に変わり果てる『茶の湯』。(笑) 暴走っぷりがどんどん進化している。そもそもこの隠居、若旦那だった頃には芝居に凝って『七段目』で先代の定吉を斬り殺したり、鍼に凝って幇間を刺し殺したりという過去を持っているくらいだから、「まだケースの中で左手に数字の札を付けられていた時に茶の湯を習った」なんて嘘をついたり、「青ギナ、まで出てた。ンコが出なかった。ンコが出て気持いい」なんてしょーもないことを言ったりするのも仕方ない。(笑) 火の粉を消す仕草、「泡が舞う! 夢の国みたい! ファストパスもらおう!」なんて遊んでた最初の茶の湯からどんどんエスカレートして危険な集団を組織するようになっていく描写の果てしないバカバカしさ。「自由にお飲みなさい。泡を制する者は泡を制する! 『そこに泡があるから』と先人も言っています。自己を解き放つのですよ!」……そしてサゲへ。『茶の湯』という噺、三軒長屋の連中に飲ませようということになってから利休饅頭を袂に入れる客人までの後半部がかなりダレがちなのだけれども、一之輔はそっちにヤマ場を持ってきた。凄い発想だ。個々のフレーズの可笑しさもあることながら、サゲへ向けてのお約束パートに大きな笑いどころを作ったという点にこそ、一之輔の真髄があると言えるだろう。

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

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尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

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