大原薫の観劇コラム

【大原薫の観劇コラム】Vol.6『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』~誰もが共感できる家族の物語を繊細に描く~

2018/02/16


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瀬奈じゅんさん(アリソン)、笠井日向さん(アリソン/小学生時代)、吉原光夫さん(アリソンの父・ブルース)
写真提供/東宝演劇部

 
共感。ミュージカル『ファン・ホーム』を見て、一番に感じたことだ。
誰もが経験のある家族との葛藤、そして和解――。初めてミュージカルに取り組んだ小川絵梨子さんの演出が細やかに登場人物の心情に分け入り、ブロードウェイ上演時とは異なるアプローチで作品の深奥に迫った。

劇場に入ると、「家」の形を象徴的に描いた舞台セットが目に入る(美術・二村周作さん)。

「アメリカ、ペンシルヴァニアの田舎町で、ゲイであることを隠していた父親ブルース。大学生のアリソンはレズビアンであることを家族にカミングアウトし、その数か月後、ブルースは自死にも見える形で亡くなる。漫画家となったアリソンは亡き父親と同じ43歳になり、父との思い出を回想する」
 
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こうストーリーを書くと、LGBTの問題が前面に出てくる社会派の作品のように思えるかもしれない。でも、(もちろん、LGBTは作品の大切な要素だけれども)『ファン・ホーム』は家族の話ということを、美術からも物語っている。
 

原作はアリソン・ベクダルさんの自伝的漫画。音楽はジニーン・テソーリさん、脚本・歌詞はリサ・クロンさん(女性の作詞作曲家チームによる最初のトニー賞オリジナル楽曲賞となった)。今回の日本上演では、演出は小川絵梨子さん、翻訳は浦辺千鶴さん、訳詞は高橋亜子さんと女性クリエイターの活躍が目立つ作品だ。

 
タイトルの『FUN HOME』は、ベクダル家の子供たちが家業の葬儀社(FUNERAL HOME)をこう呼んだことからつけられたという。シリアスなテーマをはらむこの作品がFUN HOME=「楽しい我が家」とつけられているのは皮肉でなくて、どんな日常も笑いと切なさに彩られていることを表している。ミュージカルのサブタイトルにあるように、人が生きるということはまさに「悲喜劇」なのだと思う。
 
実際、ベクダル家の子供たちが葬儀社のCMソングを作ろうと歌うナンバーは、ジャクソン5ばりにノリノリで微笑を誘うものでもあるのだ。

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舞台は父との思い出を回想する43歳のアリソン(瀬奈じゅんさん)の視点で描かれる。小学生のアリソン(笠井日向さんと龍杏美さんのダブルキャスト)と大学生のアリソン(大原櫻子さん)が出てくるが、物語は時系列的に描かれてはいない。私たちが何か思い出のものにふと触れて過去を思い出すときは断片的な記憶が蘇ってくる。それと同じような形で、様々なシーンが描かれている。

ブロードウェイでは客席が円形でステージを取り囲む形の劇場で上演されたが、これはより密接に見たいタイプの作品だからだろう。小川さんの演出はプロセニアム(額縁型)の舞台のシアタークリエであっても、客席からの心理的な距離感は非常に密接なものに仕上げていた。アリソン、ブルース、アリソンの母ヘレン(紺野まひるさん)、ブルースの恋人ロイ(上口耕平さん)、アリソンの恋人ジョーン(横田美紀さん)、それぞれの関係性を丁寧に描き、人物像を浮かび上がらせる。だから、芝居を見ているというよりは、その人物に出会ったような感覚になるのだ。
 
43歳のアリソンと小学生のアリソン、大学時代のアリソン。三世代が一体となって、アリソンという人物を描き出す。
 
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私が見たときは小学生のアリソン役は笠井日向さんで、自分がレズビアンだということを自覚する瞬間を歌った「Ring of Keys」のナンバーの表現に目を見張った(これはトニー賞授賞式で披露されたナンバーでもある。また、「鍵の束」は同性愛を象徴するアイテムだとのこと)。
 
大学生のアリソンを演じた大原櫻子さんは瑞々しい感性があふれた。初めて愛する女性と出会ったときの喜びやときめきは「ああ、そうそう……」と誰もが実感を持って感じられるもので、アリソンの人物像に親近感を持たせた。もちろん歌唱も素晴らしい。

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43歳のアリソンを演じた瀬奈じゅんさん。ストーリーテラーでもあり、物語を俯瞰する形で演じる。アリソンは家族の関係について、そして父親の自死について、自分のカミングアウトがきっかけになったのではないかなど、様々に思いを巡らす。ドラマティックに演じるのでなくむしろ冷静に演じるのが、漫画家であるアリソンらしい。43歳のアリソンが初めて物語に入り込んで演じるのが、父の自死の直前に二人きりで出かけるシーン。「Telephone Wire」のナンバーで複雑な心境を見せた。アリソンは瀬奈さんの新境地となった。

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そして、父親ブルースを演じた吉原光夫さん。ゲイであることを隠して生きてきた男性が秘密を抱え、いかに家族と向き合って(あるいは目を閉ざして)きたか、繊細な表現の一つ一つからブルースという人物が立ち上がった。好みの男性と出会ったときにふと立ち上がるセクシーさも印象的。

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ブルースは眼鏡をかけているという設定なのだが、ブルースは眼鏡の奥に本当の自分を隠していたのだろうか。とすれば、人生の最後の瞬間に眼鏡を外したのは、ブルースは最後に本当の自分自身として人生と向かい合えたのか……。

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そして、この物語は前述のとおりアリソンの視点で描かれている。こうして思い出をたどっていったアリソンは最後に思い描いた父親の姿は眼鏡を外したものであったであるとすれば、そこに家族の再生のメッセージが込められていたようにも思えた。
 
身近な人を亡くした後、その人に問いかけても答えは返ってこない。でも、アリソンのように振り返り、思い出をたどることで人は亡き人と関係を結ぶことはできる。そんなあたたかなメッセージを感じ取った。

 

写真提供/東宝演劇部

 

大原 薫(おおはら・かおる)■
プロフィール
演劇ライターとして雑誌(BEST STAGE、Sparkle、STAGE NAVI、ミュージカルなど)や公演パンフレットなどで執筆。ラミン・カリムルー、レア・サロンガ、シンディ・ローパー、ハーヴェイ・ファイアスタインなど海外ミュージカルスター・クリエイターにも精力的に取材する。ブロードウェイミュージカルの魅力に惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝える。テレビ番組『アカデミーナイトG』に「4000本以上を観劇したカリスマ演劇ライター」として出演、ミュージカル『ビリー・エリオット』の魅力を熱弁した。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び!

 
 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■
 
 

FUNHOME

 
 作 :アリソン・べクダル
音楽:ジニーン・テソーリ
脚本・歌詞:リサ・クロン
翻訳:浦辺 千鶴
訳詞:高橋 亜子
 
演出:小川絵梨子
 
出演:瀬奈じゅん、吉原光夫、大原櫻子、紺野まひる、上口耕平、横田美紀 ほか
 
日程・会場:
2月7日(水)~26日(月) シアタークリエ
3月3日(土)~4日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
3月10日(土) 愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
 
※詳細は『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』公式HP

 

 

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2018/09/14

中村七之助×中井美穂 スぺシャル対談▷10月歌舞伎座、11月平成中村..

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Profile

ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
【Official HP】 中井美穂 INFORMATION
【Official blog】中井美穂(アメブロ公式)

2018/09/21NEW

【早霧せいなのビタミン“S”】其の六.「太陽を浴びること」

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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

【Official HP】https://seinasagiri.com/
【Official Instagram】seinasagiri_official

2018/07/17

尾上松也のエンタメ異文化交流録▷ミュージカル『モーツァルト!』

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1985年1月30日生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。
5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて、二代目尾上松也の名で初舞台。様々な分野で活躍し、歌舞伎公演以外にも活動の幅を広げている。09年より歌舞伎自主公演『挑む』を主催。歌舞伎公演以外の主な出演作に舞台:『ロミオ&ジュリエット』、『スリル・ミー』、『アンタッチャブル』、『男の花道』、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』、TVドラマ「天地人」、「永遠の0」、映画「源氏物語」ほか。今年は6月からはミュージカル『エリザベート』にルイジ・ルキーニ役としての出演。8月8日には7回目の歌舞伎自主公演『挑む ~更なる幕へ勇みし気迫(こころ)~』を神奈川芸術劇場にて開催する。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト
【Official blog】松也日記(アメブロ公式)  
【自主公演サイト】挑むオフィシャルホームページ  

2018/08/06

📹【加藤和樹のエンタメCafe 番外編】〈大阪・梅田..

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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2018/08/30

【柳亭こみちのちょいと一回のつもりで聴いて】Vol.5「噺家とお茶」

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東村山市出身。2003年、七代目柳亭燕路に入門。前座名「こみち」。2006年、「こみち」のまま二ツ目昇進。2017年、「こみち」のまま真打昇進。歌って踊れて落語のできる女、老若男女から友達になりたいと思われるような噺家を目指している。亭主は漫才師「宮田陽・昇」の宮田昇。漫才師と落語家の夫婦は史上初。二児の母として真打に昇進したのも、落語史上初。「落語坐こみち堂」「なかの坐こみち堂」をはじめ、日々多数の落語会に出演し、ナレーション、講演活動、執筆活動、学校寄席への出演も多々。こみちが大きな出世街道となるよう、鋭意奮闘中
【Official HP】 こみちの路

2018/02/23

【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.8『勧進帳』

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
【Official Twitter】木ノ下裕一 Twitter

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