大原薫の観劇コラム

【大原薫の観劇コラム】Vol.8『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』▷「笑ってないと、涙が出てくるもの」 哀しく、愛おしい浦井健治ヘドウィグが劇場を包み込む。

2019/09/05


 
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ヘドウィグ / 浦井健治
撮影:引地信彦

 
マドンナデヴィッド・ボウイなど多くのセレブリティ達も熱狂し、舞台・映画共に世界中に一大ブームを巻き起こしたミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』日本公演が8/31に開幕! 
7年ぶりに上演となる日本公演では、自分の片割れを探し求めて愛を叫び続けるロック・シンガー、ヘドウィグ浦井健治さんが、ヘドウィグに付き従うイツァークアヴちゃん(女王蜂)が演じます。日米韓10人以上のヘドウィグを観てきた筆者が浦井ヘドウィグの魅力を解き明かします。

 

「笑ってないと、涙が出てくるもの」
哀しく、愛おしい浦井ヘドウィグが劇場を包み込む。

 
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』がオフブロードウェイで生まれたのが1997年。オリジナルキャストであり作者のジョン・キャメロン・ミッチェルさんが、プラトンの『饗宴』の「愛の起源(The Origin of Love)」をテーマにして描いた作品は2001年に映画化され、日本を含め世界中にコアなファンを持つ作品だ。

 
今回の会場であるEX THEATER ROPPONGIに到着し、まず目についたのがセンターに巨大な車が置いてあるセット。2014年のブロードウェイ・リバイバル上演(ニール・パトリック・ハリスさん主演でトニー賞4部門を受賞)を彷彿とさせるような美術である。

 
今回の公演を全編通して見て強く感じたのは、「オリジナル回帰」ということだ。
 

7年前の森山未來さん主演、大根仁さん演出版は近未来の日本に舞台を移した公演だった。今回はオリジナルどおりに、「ヘドウィグは東西冷戦時代の東ベルリンで壁を越えて西側に行くために性転換手術を行ったが失敗して『怒りの1インチ(アングリー・インチ)』が残った」という設定になっている。

 
今回、ヘドウィグがブロードウェイの劇場で一日限りの公演を行う(そして、ヘドウィグのかつての恋人トミー・ノーシスが隣接するタイムズスクエアでライブを行っている)という設定なのも、2014年ブロードウェイ版と同じだ。

 
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舞台はヘドウィグが登場し、マントを広げて「あたしは新しいベルリンの壁」と叫ぶ、きわめて印象的なシーンから始まるが、このマントの復活も嬉しい出来事。映画版・オフブロードウェイ版で有名なシーンだが、なぜか2014年ブロードウェイ版ではこのマントが登場しなかったのだ。「西と東、隷従と自由、男と女という境界線を越えた存在」であるヘドウィグを視覚的に具現化するアイテムがマントなだけに、このマントの登場で一気にヘドウィグの世界へと心をかき立てられた。
 
こうして、全編でオリジナルのジョンさんが作った世界に対する深いリスペクトを感じさせるのが今回の公演である。
 
そして、これまで日本では三上博史さん、山本耕史さん、森山未來さんと演じてきたヘドウィグを浦井健治さんが演じる。
いわゆるミュージカル曲ではなくロックを歌う作品で、観劇する前は浦井さんとロックのイメージが必ずしも結び付いていなかったのだが、予想はいい意味で裏切られた。
作品冒頭、「Tear Me Down」の第一声がまさに「魂の叫び」というような、力強いロックだったのだ。こんな歌唱をしている浦井さんは初めてだ。

 
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ヘドウィグのコンサートという形を取っているこの作品は、私たち観客はコンサートのオーディエンスということになっている。ヘドウィグがコンサートで一人語りをするのは、東ドイツで生まれた少年ハンセル(=ヘドウィグ)のとの葛藤や結婚を申し込んできたルーサー軍曹とのこと、「アングリーインチ」を持ってアメリカに移った後、「この人が自分の本当の片割れではないか」と思いを掛けたトミーとの一部始終。浦井さんは母、ルーサー、トミーのキャラクターをそれぞれが伝わる演じ方で、具体的に表現して見せる。

 
浦井さんは空気も震えるような細やかさで一人語りの中に、丁寧にヘドウィグの心の変遷を映し出す。ヘドウィグが何を考えているのか、何を求めているのかがよくわかり、共感度が高いヘドウィグだった。

ナンバーでは、自分の片割れを求める想いを歌った曲「The Origin of Love」をエモーショナルに聞かせ、作品のテーマを伝えて印象深い。「Sugar Daddy」で見せる無邪気な明るさ。「Wig in a Box」は客席と一緒に同じ振りを踊るシーンもあった。

 
「あたしは新しいベルリンの壁」という台詞が象徴するように、ヘドウィグは男性性と女性性の間に、あるいは資本主義と共産主義の狭間で彷徨う孤独の象徴だ。実際にはベルリンの壁が崩壊した後も、心の「壁」はあり孤独は絶えることがない。浦井さんが演じるヘドウィグの、愛を求める彷徨が切なく心に響く。

 
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イツァーク / アヴちゃん(女王蜂)

 
ヘドウィグに付き従うイツァークを演じるのはアヴちゃん(女王蜂)。クロアチアのドラァグクイーンだったイツァークに対し、ヘドウィグは「前に進むためには何かを切り捨てていかないといけない」と、二度とウィッグをつけないでと命令する。愛と自由を求めるヘドウィグが、一方ではイツァークを抑圧していたのだ。ジェンダーを越えた存在であるアヴちゃんが、抑圧された鬱屈感と屈折した愛情を繊細に表現する。一転して、歌声は極めて大胆で、パンチがある。「The Angry Inch」のナンバーではヘドウィグとイツァークがシンメトリーになるダンスもあって、ヘドウィグとイツァークがコインの裏表のような関係であることを見せた。

 
ヘドウィグの魂の彷徨の果て、終幕に何が起こるかはぜひ劇場で確かめていただきたいが、最後に私が感じ取るのは「希望」だ。

激情、哀しみ、叫び、孤独、愛……。「アングリーインチを持ったドラァグクイーン」というと、自分とかけ離れている存在と思うかもしれないが、ヘドウィグが抱えるのは誰しもが胸の中にあるもの。ヘドウィグは私たちの中にある。だから、浦井ヘドウィグと共に心の旅に出かけてほしい。

 
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大原 薫(おおはら・かおる)
演劇ライターとして雑誌(BEST STAGE、Sparkle、STAGE NAVI、ミュージカルなど)やweb、公演パンフレットなどで執筆。ラミン・カリムルー、レア・サロンガ、シンディ・ローパー、ハーヴェイ・ファイアスタインなど海外ミュージカルスター・クリエイターにも精力的に取材する。2017年『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ SPECIAL SHOW』パンフレットでジョン・キャメロン・ミッチェルのニューヨーク取材を行った。
ブロードウェイミュージカルの魅力に惹かれて毎年のようにニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝える。テレビ番組『アカデミーナイトG』出演やトークイベント司会なども。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び!

 

■□■BUTAKOME☆Information ■□■
 

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トニー賞受賞作品 新作として2019年日本公演上演!

『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ
 

作:ジョン・キャメロン・ミッチェル
作詞・作曲:スティーヴン・トラスク
 
翻訳・演出:福山桜子
歌詞:及川眠子
音楽監督:大塚茜
 

出演:ヘドウィグ:浦井健治
イツァーク:アヴちゃん(女王蜂)

Band(THE ANGRY INCH)
Guitar:DURAN Bass:YUTARO Drums:楠瀬タクヤ Guitar:大橋英之 
Keyboard:大塚茜

 
日程・会場:
東京 8/31(土)~9/8(日) EX THEATER ROPPONGI
福岡 9/11(水)・9/12(木)  Zepp Fukuoka
愛知 9/14(土)~9/16(月・祝) Zepp Nagoya
大阪 9/20(金)~9/23(月・祝) Zepp Namba
東京 9/26(木)~9/29(日) Zepp Tokyo

 
公演に関するお問い合わせ:サンライズプロモーション東京 
TEL 0570-00-3337(平日12:00~18:00)
 

💡『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
OFFICIAL HP>>> www.hedwig2019.jp
 

 
 

 

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ロサンゼルス生まれ。87年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)にレギュラー出演。97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・バラエティと幅広い分野のテレビ番組やCMに出演している。
演劇コラムの執筆や、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。
2013年~読売演劇大賞選考委員を務める。
【Official HP】 中井美穂 INFORMATION
【Official blog】中井美穂(アメブロ公式)

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長崎県佐世保市出身。2001年に87期生として宝塚歌劇団に入団。初舞台は『ベルサイユのばら2001』。 2014年に雪組トップスターに就任。『ルパン三世-王妃の首飾りを追え!』『るろうに剣心』『星逢一夜(ほしあいひとよ)』などで主演を務め、2017年7月『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)/Dramatic “S”!』で、宝塚歌劇団を退団。
退団後初のステージ『SECRET SPLENDOUR』も大好評を博し、2018年5~6月にミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で主演を務める。

【Official HP】https://seinasagiri.com/
【Official Instagram】seinasagiri_official

2019/06/07

尾上松也さんSpecialインタビュー▷第二回『百傾繚乱』8月24日..

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1985 年生まれ。東京都出身。歌舞伎俳優。父は六代目尾上松助。1990 年 5 月、「伽羅先代萩」の鶴千代役にて二代目 尾上松也を名のり初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「義経千本桜 吉野山」佐藤忠信 実は 源九郎狐などの大役を勤める。一方、2009 年からは歌舞伎自主公演 「挑む」を主宰している。

歌舞伎の以外でも、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013)ベンヴォーリオ役、「エリザベート」(2015)ルイジ・ルキーニ役、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK)今川氏真役、初の主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」等、活躍の場を広げている。

【Official HP】 尾上松也公式ウェブサイト

2019/08/22

【9月11日リリース決定】加藤和樹さん、配信シングル「Tell Me..

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1984年10月7日生まれ。愛知県出身。現在、LIVEや舞台・ミュージカルなどに参加幅広いファン層に支持され、歌手・俳優としても各界で注目を浴びている。

2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。
日本や韓国・台湾・中国でのCDリリースの他、自身のアルバムなどのTOURである「LIVE“GIG”TOUR」とラジオ公開放送のように投稿メールとリクエストを中心に構成されている「“KK−STATION”TOUR」や、日本武道館や日比谷野外音楽堂、アジア圏でも単独ライブを開催するなど精力的に活動。

同時に俳優としても活動しており、ドラマ「仮面ライダーカブト」「ホタルノヒカリ」「インディゴの夜」「赤い糸の女」「乾杯戦士アフターV」などに出演するほか、アニメ「家庭教師ヒットマンREBORN」桔梗役や時代劇アニメ「義風堂々」石田三成役、ゲーム「戦場の円舞曲」「イケメン戦国」「B-Project」などで声優としても活躍。

近年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』や『タイタニック』など大型ミュージカルにも出演。2016年4月・5月『1789 バスティーユの恋人たち』で帝劇初主演、9月~10月『真田十勇士』霧隠才蔵役に挑む。2017年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』に出演決定。

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2018/11/20

【柳亭こみちのちょいと一回のつもりで聴いて】Vol.7「女のお喋り」

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東村山市出身。2003年、七代目柳亭燕路に入門。前座名「こみち」。2006年、「こみち」のまま二ツ目昇進。2017年、「こみち」のまま真打昇進。歌って踊れて落語のできる女、老若男女から友達になりたいと思われるような噺家を目指している。亭主は漫才師「宮田陽・昇」の宮田昇。漫才師と落語家の夫婦は史上初。二児の母として真打に昇進したのも、落語史上初。「落語坐こみち堂」「なかの坐こみち堂」をはじめ、日々多数の落語会に出演し、ナレーション、講演活動、執筆活動、学校寄席への出演も多々。こみちが大きな出世街道となるよう、鋭意奮闘中
【Official HP】 こみちの路

2018/02/23

【木ノ下裕一の歌舞伎の“ツボ”】 Vol.8『勧進帳』

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木ノ下歌舞伎 主宰
1985年7月4日、和歌山生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。2006年に古典演目上演の演出や補綴・監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。
『黒塚』(’13)、『東海道四谷怪談—通し上演—』(’13)、『三人吉三』(’14)、『心中天の網島』(’15)、『義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー』』(’16)
2015年に再演した『三人吉三』にて読売演劇大賞2015年上半期作品賞にノミネートされる。
その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。2015年3月に博士号(芸術博士)取得。

【Official HP】木ノ下歌舞伎 公式サイト
【Official Twitter】木ノ下裕一 Twitter

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